星屑の下で眠る

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 通知不可能。  という着信履歴を見て、私は世の中にこんな着信通知があるのかと疑った。  仕事を終え、駅へ向かっていた。  信号待ちの途中、思いついて折りたたみの携帯の画面を開いて見ると、その表示が出ていた。  信号が変わり、次々と人が歩き出す。流れに押されるように私も歩き出し、携帯を鞄にしまった。  駅への入り口の、大勢の人が地下へ降りる階段は、水の流れが暗渠に飲み込まれていくみたいだった。風のない蒸し暑さで首すじの汗が気になる。私は人の流れに乗って階段を下った。  見たことのない着信表示はちょっと怖い。  出なければ害はないと思うけれど、知らない誰かが私の番号を知っていると思うのは、気持ちのいいものではない。  改札を通るとちょど電車が出るところだった。私は急ぎ足でホームに駆け下り、目の前のドアから飛び乗った。  梅雨時の車内はじめっとしていた。天井からごうごうと音を立てて冷気が落ちてくる。身体が一気に冷やされ、風を避けて車内の奥へ進み、つり革に捕まった。  ゆっくりと列車は動きはじめ、徐々に速度を増し始める。  列車は長いトンネルを通る。窓の外は真っ暗な暗闇だ。  窓に私の影が映る。冴えない表情。私はどこへ視線を移そうか迷って、つり革をつかむ手を見ていた。  やがて地下を抜け、街並みと少しの空が見えた。景色が見えるだけで、少し息がつけるような感覚になる。  さっきの着信は何だったのかと、携帯を取り出した。  着信履歴の文字には手がかりはない。  代わりに留守番電話が入っていた。  誰の声が入っているのだろう。  気になったが列車内で留守電を聞くことは、はばかられる。最寄り駅まで待つしかない。  着信不可能の表示を検索してみたら、国際電話の可能性があるということだった。かけてくる相手に心当たりはなかった。
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