7 ラブレター

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 ライブが終わり、ざわついた会場内に明かりが灯る。ゆっくりと太陽が昇るように照らされ、影のようになっていた人々が個人に戻る。退場時の注意を告げる案内が無機質な声で流れ、感謝の言葉を告げていた。 「arisa!!」  ひときわ大きな声が響く。それに導かれるように、声が重なる。自席で立ったまま待機していたファンは顔を見合わせるようにして笑顔になって、もう一度を叫んでいる。アンコールを求める人々の声。ばらばらが一つになって大きな渦になっていく。  すっと、光が消えた。  同時に地を這うようにして響きだした音に、身震いがした。アンコールを求めていた人々の熱狂がおれを置いていく。  見たいと思っていた。確かめたいと。そこに出演しているのがリョウさんなのか、それとも違う誰かなのか。もし違ったとしても問題はなく、リョウさんをきっかけにおれは新しい世界を知れる。そう思っていたあの曲。  一瞬消える音が緊張感をもたらす。飛び上がり音もなく着地するダンサーを一人一人目で追って、最初の一人に戻る。出てきたときからわかっていた。フードを被ってしまっている、彼。  床をすべるように動く足先、何も凶器など隠し持っていないはずなのに何かしでかしてしまいそうな危うさ、世界を直線に裂くような指先。  それは錯覚などではなく、実際に演出上鋭い光が走った。暗闇が痛めつけられたような鋭い光。arisaの声が針金のように天を貫く。  フードを被ったその顔が少しだけ見えた。  口元を歪ませるように笑って、そして、勢いよく顔を上げた彼と目が合った。  ――そんなはずはない。おれは前列にいるわけでもなく、流れる動きの中でどうでもいい一人に目を向けることなんか絶対にない。  でも、おれは目があったように錯覚をした。  どくどくと頭が血を求めている。今を理解しようと、彼に持っていかれ熱を失った指先に熱を戻そうとしている。こわばる指を意識して動かした。
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