リョウの話『かっこよく』

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 瑠偉は本当によく喋る。聞かなくても喋ってくれる。勝手に魅力を探して話して教えてくれる。  最近こいつは動画を投稿するようになった。一曲通して踊ったのを撮影して前後の要らないところを切り落とし、曲名だとか俺の名前だとかを入れている。  9割は自分のために撮っておきたいんだと言い、残りの1割は俺のことを色んな人に知ってもらうためだと言いながら、再生数が上がると頭を抱えている。広く知られてほしいけどおれだけのリョウさんでいてほしいと瑠偉は言う。何回も何回もこいつが見てんだから、再生数の99%は瑠偉だろうに。  自分が表に出るのではなく、振り付け師としてやっていくこと。できればそれが良いんだろうと思う。ずっと踊っていたいなら、ダンスに関わっていたいなら一番いいんじゃないかと思う。まだ俺は熱に狂う舞台に立って自分の体で表現したいと思う気持ちもあるけれど、振りつけの経歴があるほうがいい。動画だって、自己紹介のようなものだ。  瑠偉は言う。何のきっかけでリョウさんのことを知ってもらえるかわからないって。  自分のことを諦めるわけじゃない。諦めないために、自分以外の人間を使うことで新しいダンスにチャレンジできたらいいと思う。この世界でやっていくためにも自分の成長のためにも、それが良いことだろう。  満足している。でも不安がある。そんな時にこいつを誘う。ただ抱きしめてほしいなんて可愛いことは言えやしない。だから「すっきりしたいだけだ」って誘うのに、瑠偉は――。  ばれてんのかな。年下のくせに。毎度毎度何かある度に甘えてるって、ばれてんのかも。  もっとかっこよくいなきゃなぁ。
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