4 演者

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4 演者

 こっそり見るために撮影した動画。残念ながらやはり光量が足りないのか、はたまたおれの技術不足かぼけてしまっていて、ちゃんとしたビデオカメラを買うべきかと真剣に考え始める。それでも新しく入手したおれだけの動画は、コピーを取っておくことにした。名前を付けて、日付もきちんと残しておく。今後増えてくれればいいと願い、データ整理しやすいように未来のことを考えた。  動画の中の彼は、まっすぐ前を見ている。その目が時折おれ(・・)に向く。歌の人物だった彼が現実に降りてくる。  それが良いことなのか悪いことなのかわからなかった。"おれを見ている"ということだけが強く意識づけられる。音楽の入っていない動画で、かすかな靴音だけがノイズに乗る。  恋愛曲の中でリョウさん(・・・・・)の目が細められるのは、少しドキッとした。  歌そのものを演じるように踊る彼が好きだ。だから演者であるリョウさんの素の顔が見えてしまうのは違うと思う。  だけど、――だけども、現実にいる彼がその世界を作っているとありありと感じさせられるのも悪くはない気がした。
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