私、くまのプーさん脱出する

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私、くまのプーさん脱出する

 愛美は、自室の鏡でポージングをしている。 (沖田君に、プーさんって言われるのは嫌いじゃないけど、やっぱり、可愛いとか思われたいじゃん! ん? なんで、私、沖田君の事、気になってるわけ?)  鏡の中のぽっちゃりの愛美は、どう見ても颯太のからかい対象の女の子だ。  現実から目を背けてはいけない。  たぷたぷの二の腕をつまむ愛美は、プーさんって言われないよう頑張ろうと思うのだった。  颯太は知らない。  自分の発言が愛美を本気にさせたなんて事は。 (あのぽちゃぽちゃがいいんだけどなぁ。ダイエットか……三日坊主で終わるっしょ)  颯太は、愛美はすぐにダイエットを断念すると思っている。  これから先は、二人の心理戦になる可能性が高い。  颯太は、愛美は甘い食べ物と甘い飲み物が大好きだという事は知っている。  翌日、愛美はお昼休みに小さなお弁当を持ってきた。  よく見たら、おまんじゅうがひとつある。  それを見た颯太は、ニヤリと笑った。 (はうっ! 見られたああああ! 食後のデザートに食べようとしたのバレたああああ!)  頭を抱えたい気分になる。  颯太は、ほら、言わんこっちゃないだろ、ダイエットなんてできねーんだよって顔で笑ったに違いない。  明らかに、愛美の妄想だが、甘味を食後に食べようとする時点で、ダイエットしないと言っているのと同じなのだ。 (待てよ? お弁当の後に食べようとも昼食には変わりないもんね。まんじゅうもお弁当の一つと思えば、間食にならない。大丈夫)  謎のガッツポーズを心の中でした愛美だったのだ。 (やっぱり、あいつにはダイエットは無理なんだ。だって、メス豚なんだもの)  颯太は、部室でお一人様ランチをしながら、勇臣が良いと絶賛してくれた写真を眺めている。  薬品臭い部屋でよく弁当が食えるな、お前と敏郎に嫌味を言われた事があったが、ぼっちなのだから教室の外で食べようと自由だろとシレッとして言い返した事があった。  それに、部室は落ち着く。  コンテストに出す写真は決まったのだが、デジタルカメラの画像を眺めながら、片手でおにぎりを持ち時折もぐもぐと咀嚼し、ペットボトルのお茶を飲むという器用な事をしている。 (でもな……。この一枚もあいつにあげたいんだよな)   ちらっと時計の針を見ると、お昼休みもあと少しで終わろうとしているので、颯太は慌てて片付けてから部室をあとにした。  教室に戻って席につく途中、愛美と目が合ったのでとりあえずニヤニヤと笑ってみた。 (あのまんじゅうを食べたんだろ)  謎の勝者のような不敵の笑みをした事を、愛美も気づいたに違いない。  それにたいして、愛美はブイサインをしてきた。 (は? 意味わかんねぇ。勝つ自信あるのか?)  颯太は、肩を竦めた。
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