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颯太と近藤が最後に部室から出る時に、きちんと鍵をかけたのに、部員が来た時にはすでに部室の鍵は開いていたという。
地区大会に選ばれなかった部員の、ちょっとした嫌がらせではないか? そんな噂が広まった。
「中倉、ちょっといいかな?」
颯太は、部室での出来事を愛美に打ち明けた。
愛美は、兄はそういう事はしないと思うと颯太に言った。
「だよな。合い鍵なんて持っているわけないか。ありがとう、教えてくれて。あのさ……少し顎とかすっきりした?」
颯太は、話題を変えた。
「わかった? 実はそうなの。でも、沖田君のためじゃないからね。ね、大会に行ける事になったんだよね、頑張ってね」
「あ、うん。中倉も頑張れよ」
颯太は、そう言って大会の準備があるからと部室に急いだ。
颯太に気づいてもらえた事が嬉しかった愛美は、ダイエットを継続する気持ちになった。
実を言うと、あまり成果が表れないから辞めようと思っていたのだが、颯太の憎たらしい程のニヤニヤする顔を思い出すと、やる気を起こすのだから不思議だ。
愛美の弁当もヘルシーなおかずが増えている。
前まで別腹で食べていたおまんじゅうは、今では俵形おにぎりと一緒にお弁当箱に入れている。
これでも、愛美なりの心の変化と言えよう。
「愛ちゃん、本当は沖田の事が好きなんでしょ?」
「まさか。ありえないよ」
「そうかな? 少しずつ効果表れているのを、沖田にわかってもらえて喜んでたから、てっきり好きなのかなって」
桜井に言われて、愛美は内心、ドキリとした。
颯太の地区大会も、順調に進んだのだった。
まだ、部室の鍵開いていた事件は解決していなかったが、颯太は他校の部員たちから少なくとも刺激を受けていた。
普段は憎まれ口を叩く相手の敏郎とも、大会を通して少しずつ心を通わせ始めた。
「あしたが最終日だって。部長も張り切っているから、俺たちも頑張るか」
レンズを取り替えながら敏郎は言った。
「そうだな。土方さんは、自然を写すのが好きなのか?」
「まぁな。人物を写すのは苦手なんだ。沖田も自然を写すのが多いんじゃないか?」
「確かに。人物も写すのは好きだけど、なかなか思うようにいかなくて。近藤さんは、自然と人物をうまい具合に合わせて写すのが上手だな」
颯太もレンズを取り替えながら話す。
「二人とも、あしたで最後だぞ。勝負する写真は撮れそうか?」
「俺は目星をつけてます。それはここでは教えません。お互いに頑張りましょう」
そう言って、敏郎は撮れそうな場所探しをするために腰を上げて移動を開始した。
「俺も負けてられないんで。近藤さんにも加減はしないつもりですよ」
颯太はニィと笑ってからカメラのレンズを確認すると、その場から離れていった。
部長といえども、ライバルには負けたくないのだ。
(メス豚だって頑張ってんだ。俺も、いい写真撮って賞を狙おう)
自分を奮い立たせて、颯太は小川に写り込む屈折した光を捉えた。
愛美の喜ぶ顔が、颯太の脳裏に浮かんだ。
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