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(それにしても、メス豚……あんなにポチャッとしてんのに、なんで友達いるんだ?)
積極的にクラスメイトに話しかけない颯太は、いわゆるメガネポチャ体型の人イコールオタクと思い込んでいるので、愛美のようなオタクっぽい女子に友達がいるのが不思議であり、何となくつまらないのだ。
(自己分析の結果)第一印象はけして悪くはないのに、女子から声をかけられない自分はおかしいと颯太は思っている。
カップ麺を平らげたところで、やっと腹八分目という感じか。
テーブルの上に、母に宛てた手紙を置いたら颯太は自室にこもる。
数学と英語の宿題がある事を思い出して、颯太は机に向かって問題を解いていく。
友人がいないので、スマートフォンを気にする事はない。
クルクルと器用にシャープペンシルを回しながら、時には教科書を開いて問題の回答を導き出している。
どれだけの時間机に向かっていたのだろう。
母が帰宅してきて、冷蔵庫から飲料水を取り出してコップに注いでいる音が微かに聞こえる。
そして、シャワーでも浴びるのかお風呂場に向かう足音も聞こえる。
母は、昼間はマッサージの仕事を、夕方からは居酒屋で洗い場の仕事をしている。
ほとんど肉体労働だから、夜遅くにシャワーでも浴びて疲れを取りたいのだろう。
賃貸マンションなので、壁が薄いから様々な生活の音が聞こえると、寝付こうとした颯太には、はっきり言って苛立つ原因になる。
深夜までデロデロに酔っ払って帰宅してきて、具合悪そうに唸ったり嗚咽する音を聞くよりはよっぽどマシなのだが。
(うっせぇ……)
颯太は、イヤホンを耳に差し込んで眠りについた。
耳栓代わりだが、耳をふさいだ事で多少は雑音は気にならなくなったように感じる。
こうして、颯太は朝まで時折目を覚ますものの何とか眠れた。
この苛立ちの発散方法が、クラスの愛美をからかう事なのだ。
「おはよう。その二の腕触らせてくれ」
颯太は、顔がいいので(あくまでも自己分析)多少の事は愛美も嫌な顔をせずにさせてくれる。
「イチゴ大福みたいだな」
「そう? ぽちゃぽちゃして嫌なんだよね」
「女子なんて多少、これくらいがいいんだって」
颯太の嫌味も顔がいいだけで許される。
他の男子が言ったらセクハラだと言われていたかもしれない。
愛美は体型を気にしている口調とは裏腹に、お弁当箱は男子より大きくよく食べる。
「中倉さん、おはよう。あ、沖田もおはよう」
「おはよう、さん。推しメンの新巻出たんだよ」
颯太の存在を忘れているかのように、二人ははまっている漫画の話を始める。
「おい、桜井! 俺をついでみたいな挨拶しやがって!」
「え? あ、だって、そこにいたから挨拶しただけだし、別に挨拶の順番なんてどうでもいいじゃん。てか、沖田はまだいたの?」
「いたの? じゃない。そこ、通り道だから道ふさがないでくれるかな」
颯太は、仏頂面になって話し込む二人を軽く睨んだ。
あ、ごめんねと避けたのだが、颯太はくまのプーさんが幅取ってるから邪魔で仕方ないとぼやきながら自分の席へ行ったのだが、それを聞き逃さなかった桜井は、ちょっと! 沖田! 今の酷いよ! 謝って! と、颯太のワイシャツの裾を引っ張った。
「は? 邪魔なもんは邪魔って言って何が悪い? 服、引っ張るな、ブース」
颯太は、桜井の手を解き何事もなかったかの顔をしてさっさと席につく。
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