ハブられてる?

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 教室に戻ってきたら、クラスから注目を浴びる。 「沖田!」「沖田君!」 「颯太!」  颯太の母親まで駆けつけていたらしくて、生徒の声に混ざって母親の声が聞こえた。 「お母さん……? それから、みんなも……騒がせてごめん」  颯太は、目に涙を浮かべて深々と頭を下げた。 「皆に迷惑かけて……。本当、申し訳ありませんでした。これからも、この子の事よろしくお願いします」  颯太は、こんな母親を見たことがなかった。  いつも仕事の掛け持ちで家にいない時間が長くて、深夜にならないと帰って来ないのに。 「お母さん、なんで学校に? 仕事は?」 「学校関係者を名乗る人から電話が来たの。お母さん、ここの高校のOGで、その電話くれた人も繋がりあってね……母子家庭だからって気にかけてくれてるの。仕事は切りのいいとこで切り上げてきた。息子が大事に決まっている。本当、担任の先生も、クラスメイトの皆さんに何度も謝っても謝りきれない」  颯太の母親の言葉に、愛美が先に口を開いた。 「沖田君をみんなで責める形になってしまった原因を作ったの、私なんです。私が可愛かったら、きっと沖田君を追い詰める事はなかったのだと思います」 「中倉、どういう事だ? 先生も、沖田の異変に気づいてあげれなかった。これからは、もう少し、沖田をはじめ、他の生徒に寄り添いたいと思います。あの……颯太君のお母さん、気づいてあげれなかった私の責任です。申し訳ありませんでした」  担任が颯太の母親に土下座をした。 「この際だから、みんなで、命について話し合おうな。中倉に何があったのか聞いていいだろうか?」 「俺が、イチゴ大福みたいだとかくまのプーさんみたいだとか、中倉の事からかったんです。そしたら、本人よりもクラスの桜井がカンカンに怒って、今の何? 謝れ! とか言ったら女子からのブーイングが一切に起こって……自分が悪いのに、存在感否定された気分になって、死んで詫びたら早いと思って……」  名前が上がった桜井が、「存在感否定したつもりはなかったけど、そう思ったならごめんなさい」と謝罪した。 「あの……、まずは、先生、顔を上げてください。それから、中倉さん……だっけ? 貴女にたいしてひどい事言ったのは、私がきちんと颯太に良し悪しを教えてなかったからです。こんな母親、失格ですね」 「いえ、おばさんは悪くないです。沖田君の言葉はまだマシなほうで、中学生の頃はトドとかセイウチとかゾウとか言われてました。大福とかプーさんは、可愛らしいし、私はひどいと思ってません。だから、もう謝る必要はないです。私、沖田君の事があって、もっと真剣に自分の体型を見つめる必要あるなって気づいたんです」 「これくらいの年齢の男の子は得に女の子の気にしている事を悪気なくても突っ込むところあるからな。それ、今から男子全員、地雷踏まないよう気をつけていこうな。大人になっても、地雷踏まないように。あの……お母さん、本当に仕事に戻らなくて大丈夫ですか?」 「午後からの仕事には出ますが、まだ大丈夫です。でも、そろそろ帰ります。失礼しました」  そう言って颯太の母親は、教室から出ていった。  命がいかに尊いのかという話し合いはしばらく続いた。
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