微妙な距離

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 颯太は、真っすぐ帰宅する気にならず、部活でコンテストが近かった事を思い出して、公園まで歩いてきた。  遊具で遊ぶこどもたちの笑顔を、デジタルカメラで何枚か写した。  その場で確認できるからデジタルカメラはいいと思う。  写真を確認している颯太の後ろから、聞き慣れた声がしたような気がしたのだが、とりあえず画面を睨めっこする事に集中。 「ガン無視かよ! 聞こえなかったのか? 沖田颯太、何やってんだ?」 「見ればわかるだろ。写真の出来具合を見てんの。あれ? 土方さんは、帰宅したんじゃなかったっけ?」  耳だけを貸して颯太は、デジタルカメラを構えて再び遊具にレンズを向けた。 「チッ。可愛いげのない奴め。俺は、帰宅途中で引き返したんだよ。理由は、お前と同じかな。コンテスト控えてるし。ここって、俺も気に入りの場所なんだよ。()になりやすいのが多いよな」 「あら、奇遇だ。俺もあんたも、お互いを好かないくせに、なんでかな……、撮りたい画は同じらしい。でも、俺はちょいと場所移そうかな」  敏郎とは同じ場所にいたくないのか、颯太は移動開始した。 「せいぜい、お互いに頑張ろうや」 「俺は負ける気しないけど。頑張ろ」  声がしたので立ち止まり、ひらりと右手を上げて振ると、颯太は再び歩き始めた。 (あれ? メス豚……?)  以前も、似たような光景があったなと思いながらも颯太は、周りにクラスメイトがいない事を確認し、愛美に近づいた。 「中倉、何やってんだ?」 「ここから見える景色がいいなって。夕陽がキラキラって綺麗に反射する川が……」 「ほんとだ。スマホで写真撮ってたのか?」 「うん。そういえば、沖田君って、写真撮るの好きなんだよね? いつだつたか、写真部の部長さんが教えてくれたんだ」 「近藤さんが? ふーん。まぁ、嫌いじゃない。長倉、ダイエットする気あるのかよ?」  颯太は、愛美の全身を頭の先から隅々眺めて聞いてみる。 「じろじろ見ないでよ、恥ずかしいから。ダイエットは、頑張っているよ。なかなか、成果が出てないけどね」  チロリと赤い舌を出して愛美は、肩を竦めた。 「中倉をモデルに一枚、撮っていいか?」 「え? なんで? 私なんて可愛くないし……ぽっちゃりだし……」 「可愛い……よ。って、何言わせんだよ。あーあ、調子狂うな」  颯太は、愛美から視線をそらした。 「沖田君って可愛いね。男の子を可愛いとかおかしいな? でも、沖田君は、どうして、そんなに私を撮りたいの?」 「ビフォーアフター的な? ダイエットに成功したら、前はこんなだったなって思い出して、常に気をつけるようになんじゃね?」  颯太の嫌みが復活した。 「ひっどーい。だけど、それ、一理あるかも。私、頑張って見返すからね! 記念に今の私を撮っていいよ?」 「マジか。じゃ、一枚だけ撮らせて」  颯太は、デジタルカメラを構えてモデルになってくれた愛美を撮った。  はにかむ愛美の笑顔が、颯太のデジタルカメラにきちんと写っている。  画面で確認していると、愛美が覗き込んできて、現像して一枚欲しいと言ってきた。  面を喰らったが、颯太はいいよと言って後日、現像して愛美に渡すと言うと、この日は、河川敷で別れて颯太は、現像を出しにコンビニへと急ぐ。  愛美は、スキップしながら帰宅していく。  この姿を颯太は見ていない。  なんてタイミングが悪いのだろうか。
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