微妙な距離

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「はぁ……」  愛美はため息をついた。  恋煩いとか、そんなのではないと思いたい。  後日、颯太は部室で作業をしていた。  愛美に渡すためのネガだ。  この写真は、いまどき珍しくフィルムタイプのカメラで撮ったのだ。  実は、デジタルカメラとは別にアナログタイプのカメラでも、愛美を写していたのだ。 「颯太、コンテストに出す写真、どれにするか決めたか?」 「まぁ、決めてますよ。それより、近藤さん、暗室に入る時は気をつけて下さいよ」  少しでも光が入ると現像に出すとき、ネガがダメになる可能性がある。 「すまん、すまん。出来上がったら見せてくれ。最終チェックをするからな。敏郎はもう終わったみたいだぞ」 「へー、そーですか。っと、乾燥させたら出来上がりますよ」  颯太は、淡々と作業を続ける。  本当は、誰にも見せたくないネガなのだが部長の勇臣にはさすがに見せないわけにいかず、しぶしぶ現像した一枚の写真を見せる事にした。 「自然体の笑顔がいいな! これでコンテストに出してみるか?」 「マジですか。他には小川のこういうのもありますよ?」  颯太は、愛美が写っていない川だけの写真も近藤に見せた。  静止画だけど、川の水の流れがよくわかる一枚だが、少女の笑顔がいいと結局は、愛美が写っている写真で勝負する事になった。  仕方ないので、デジタルカメラの写真を愛美に渡す事にした。  本当は、セピア色のあの写真も渡したかったのだが、勇臣の熱意に負けてあれは、コンテスト用にしたので、愛美の目に触れる事はなくなったが、まあ、喜んでくれるならいいかと思う颯太だった。 「沖田君、ありがとう! あの日のだよね? 意外と可愛く写っていて自分じゃないみたい」 「いや、紛れもなく中倉だからな。今度はアフターの写真撮らせてくれよ、プーさん」  からかったつもりだったが、愛美は「スリムになったら読モに選ばれないかなぁ? 本当、ありがとうね」など言って嬉しそうにしているので、プーさんって言ったのに気にしねーのか? マジ? メンタル (つよ)っ! とか思う颯太だ。  流れで、颯太と愛美は途中まで一緒に帰る事になった。 「私のビフォーアフター、絶対に沖田君が撮ってよね! 私、マジですから。喉渇いたな」  自動販売機の前に立ち止まった愛美は、午後の紅茶のストレートティーを買って飲む事にしたので、颯太も自動販売機でミルクティーを買って飲む事にした。 「午後ティーって、ストレートとか言っても微妙に甘いよな、それ。綾鷹のお茶とかじゃないのが、らしいっちゃあらしいけど。無理して倒れんなよな。じゃぁな」  キュッとキャップを締めてペットボトルを鞄にしまうと、颯太は家に向かって歩き出した。  その後ろ姿に小さく手を振って、愛美は颯太と反対方向に歩き出した。  何気に家の距離は近い二人なのに、お互いにそれに気づいていない。  果たして愛美はダイエットに成功するのか?  
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