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沖田颯太は、小さく舌打ちをして写真部での作業を途中棄権して部屋から出ていく。
(気に食わねぇな、あの野郎)
副部長の土方敏郎とは、反りが合わない。
部長の近藤 勇臣は、二人の事が大好きだが、敏郎の事を絶対的存在として信頼をしている事が、颯太には気にいらないのだ。
(あれ? うちのクラスのメス豚じゃん?)
おもちゃでも見つけたかのように、薄い笑いを浮かべると颯太は、眼鏡かけたオタク女子の傍に駆け寄った。
「何やってんの?」
「漫画読んでた。沖田君は、これから帰り?」
「そんな事聞く? どう見ても帰るとこだけど。中倉は、誰待ち?」
颯太は、時間を持て余しているので、中倉愛美の話し相手をする事にした。
でも、きっと気紛れだ。
颯太は、彼女の事を陰でメス豚と呼んでいるので好みの女子ではないはず。
「愛美、お待たせ」
「ううん、そんなに待ってないよ。沖田君、さよなら」
愛美は、そう言って友達と帰っていく。
颯太も暇になったので帰る事にした。
(メス豚にも友達いるんだな……、別に羨ましくなんかないけど)
友達らしい存在がいない颯太は、内心は愛美に友達がいる事が羨ましくもあった。
勇臣は、颯太とは二学年違うのだが、子供の頃から知り合いという事で、友達のいない颯太を気にかけていて、写真部に誘ったのだ。
敏郎とは同学年だが、クラスが違ってよかったと思っている。
きっと、クラスが同じなら毎日のように喧嘩が絶えなかったかもしれない。
颯太は、腕時計を眺めて小さくため息をつくと、少しだけ早歩きをする。
(メス豚が読んでた漫画のタイトル、何だっけ? あれ、思い出せないや)
愛美が友達と一緒に帰る方向と颯太は、途中まで一緒なのだがこれだと、え? 何? 沖田君ってば、ストーカー? マジキモいとなりかねないので、颯太はコンビニに用事があるふりをして中へ入る。
仕方ないのでガムを購入して時間調整する。
(何やってんだ、俺……?)
コソコソする必要なんてないのに、ストーカー呼ばわりされたらどうしようとかくだらない理由で、咄嗟にした事を今更ながら苦笑いしながらコンビニから出て何食わぬ顔をして家を目指して歩き始めた。
コンビニから出るとすでに愛美の姿はなかった。
「ただいま……って、誰もいねぇか……」
シンママ(シングルマザー)で、颯太を育ててる母は、仕事の掛け持ちで、夜遅くまで働いている。
颯太は、お皿に握られた小さなおにぎり二つと、焼き魚が乗ったお皿をチンして食べる。
「何かないのかよ」
ぶつぶつ言いながら、食器棚の扉を開けて中を物色し始めた。
育ち盛りの高校生男子は、あれだけの量では足りないのだという事を母は知らない。
「カップ麺見っけ!」
やかんで湯を沸かしカップ麺に熱湯を注ぎ、三分律儀に待ったら蓋を開けてズルズルと音を立てて麺をすする。
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