いくら何でも

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いくら何でも

午後1時。 「君たち、ランチに行っていいよ」 「はい、主任」 豪運不動産は午後1時から2時半まで昼休みだ。 「今日はフレンチにする?」  「昨日は中華だったし。そうね」 豪運不動産が事務所を借りてる商業ビルの中のレストランに行く2人。   豪運不動産に入った新入社員である。 席に座り会話する2人。 「でも、ほんと。直子に誘われて本当にラッキーだよ。ありがとうね」 「前の会社、本当にブラックだったもんね」 「そうそう。まさに地獄から天国よ」 「そうよね」 「マンションにも家賃半額で住めたし、この商業ビル内で月100万円まで使えるカードも支給だしね」 「このカード、本当に助かるよね」 「ほんと。給料は前の1.5倍で家賃は半額、服も食事もこのビルで済ませれば実質無料だもん」 「毎週土曜日か日曜日は、このビル内にあるエステや美容室に行けって言われてるけど」 「あー。それは少しだけ面倒だけど、お客様商売だしね」 「そうよね。いつも身奇麗にしとかないと。主任たちは凄い美男美女だし」 「そう、それよ」 「金銭感覚がおかしくなると大変だから、服は最低限しか買ってないけど」 「私も」 「あのさ、ちょっと考えたんだけど」 「何を?」 「実は、会社は私達を試してるのかもね」 「え?」 「必ず毎月80万円以上はカードを使うようにって言われてるよね」 「うん」 「毎週の休みに必ずエステと美容室に行く。その約束を守れるのか。服や宝石ばかり買って食事をおろそかにしてないか、健康管理はできるのか。そんな試験」 「えー」 「このテストに合格しないとクビとかね」 「……正美」   「何?」 「それ、ありえるね」   「うん」 「バランスよく食べて、カードも使おうね」 「うん」 そんな試験なんてないのだが、そう信じた2人だった。 ・・・・・ 「透。豪運不動産新入社員の現状、こんな感じ」 「なるほど。豪運持ちが2人か」 「うん」 「みんなそれぞれ満足してるなら、それは結構なことだ」 「だね」 「優馬としずくが何か大きな金の失敗をやると面白いんだがな」 「イベント発生」 「金は貯まるばかり。使い道がない」 「焼き芋用に燃やす?」 「どこで札束を燃やして焼き芋をやるんだ?」 「この部屋」 「火災報知器が鳴ってスプリンクラーでビショビショだな」 「私が美女美女だからかー」 「もっと美女美女になってしまうな」 「美女美女美女美女。それは、困る?」 「怪しい事務所にスカウトされるかもな」 「それ、面白い」 「そうか?」   「やってみる」 「映画スターにでもなるのか?」 「私の姿は幻想。豪運持ちに見られたら一発バレバレ」 「画面越しなら大丈夫だろ」 「サイン会とか、握手会とか」 「そんなのに豪運持ちが来るのか?」   「豪運持ちは、そのほとんど引きこもり」 「なら、大丈夫だろ」 「おっさんみたいな、もの好きもたまにいる」 「なるほど」 「バレると……ヤバい?」 「さあ?」 「誘拐されて監禁」 「そんな事、するか?」 「豪運持ちは頭が変なのが多い。おっさん、透、私」 「なるほど」 「だから、スカウトだけされて、適当に遊んで捨てる」 「捨てるじゃなくて逃げるだろ」 「そうとも言う」 「やりすぎるなよ」 「美女美女美女くらいにしておく」 「それ、日本一の美女にならないか?」 「私は日本一の美女になるのだ」 「良いけど、俺はマネージャー役だな」 「おっちょこちょいマネージャー」 「すぐに何かやらかすのか? 俺は」 「面白い」 「まあ、面白いかもな」 「やる?」 「顔は変えてくれよな」 「もちろん」 ・・・・・ 東京駅近くのスカウト通り。東京には他にもたくさんのスカウト通りはある。 誰もが2度見する美女が歩いていた。豪運(幻)で別の姿に見せているまほろだ。 まほろの後ろをカバンを持って歩く、さえないおっさん。まほろに姿を変えられている透だ。 「すみません。ちょっとお時間いいですか?」 スカウトが声をかけてきた。 「何?」 「モデルとかやってます?」 「マネージャー」 「え?」 「はいはい。わたずが美春様のマネージャーげす」 「マネージャー?」 「そうげす。スカウトならわだずに言ってくだざい」 「えっと……何処かの事務所に所属してるの?」 「わだずは、ぞんな、じてません」 「いや、だから、その美人さん」 「美春様は絶世の美人だー」 「それは見たら分かるから」 「スカウトざん、じがんはあるっけ?」 「は?」 「じがんはあるのけ?」 「時間は有るのか聞いてるの?」 「んだ」 「有るけど」 「立ち話じも何だ。ぞこで茶でもどんだ?」  「そこの店に入るのか?」 「おごりだべ。心配ずんなー」 「いや、まあ、そこまで言うなら」 「美春様、いぢめいスカウトしただー。褒めてけろ」 「偉いわね」 「げへへ」 「いや、俺がスカウトなんだけど」 まほろ。いくらなんでも、こんなキャラは無いだろ。と思う透だった。
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