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豪運(喉)?
「ここなら大きな声で歌っても大丈夫だろ」
公園にやってきた透とまほろと天然娘。
「あ! やっぱり歌うのやめます」
「どうした?」
「私の歌を聴くと、耳が聞こえなくなるのを忘れてました」
「は?」
「私、5歳の頃に、(あ、何だか歌を歌いたい)と思って家族の前で歌を歌ったんですよ」
「うん」
「家族全員が耳が聞こえなくなったんです。それから歌は歌ってません。お寿司が食べたくて忘れてました」
「なるほど」
(この天然娘、豪運(歌)なんだろうな)
「そんな事、良くある。偶然。たまたま」
「そうなんですか?」
「確かに、たまにある」
「へえー。知りませんでしたー」
「心配しなくていいから、思いっきり歌ってくれ」
「歌え」
「分かりました。どんな歌がいいですか?」
「そうだな……」
「伊藤さなえ、赤トンボ歌います!」
「は?」
天然娘の伊藤さなえは赤トンボを歌いだした。
(こ、これは! 凄い音痴だ。まほろは耳をふさいでるし)
「次は、ふるさとを歌います!」
「あ、おい」
ふるさとを歌いだした伊藤さなえ。
(ん? 人が集まりだした。しかも、みんな号泣している。そうか、豪運(歌)の力か)
全部で5曲歌った伊藤さなえ。
「グスッ。あ、あの、お金は、グスッ、いくら払えば?」
歌を聴いてた人が、泣きながら透に尋ねてきた。
「え?」
「グスッ。いえ、そこの帽子にお金が入って、グスッ、いるので」
(あ、まほろが被ってた帽子を裏返してお金を入れたのか)
「1000円から」と、まほろ。
「グスッ、この歌で1000円は安いです。俺は3000円払います」
「私も払う」
「あ、俺も」
次々に帽子の中にお金が入っていく。1万円札を入れる人もいた。
(おいおい、余裕でお寿司代ゲットだな」
「自己紹介」
「俺?」
「天然娘」
「あ、君、自己紹介して」
「あ、はい。伊藤さなえ18歳です。もうすぐデビューします。よろしくお願いします。CD買ってね」
パチパチパチパチパチ
CD買います! めっちゃ泣きました! 拍手や応援の声が広がる。
「じゃあ、またね」
・・・・・
「儲かったな」
「うん。10万円くらい。いくら貰えるの?」
「ん?」
「私の取り分」
「あ、そうか……」
「まだ契約前。契約後は9割」
「そっか。貰えないのか。契約しても1割なのか……世間は鬼ばかりだよ」
「いや、勘違いするな」
「え?」
「今日のこのお金は全て君の物だ」
「へ?」
「契約後は君は9割もらえる」
「本当に?」
「本当だ」
「私、騙されても恨みません!」
「いや、騙さないし」
「はっ! 最初はそんな甘いこと言って、実は私をエロい仕事にするんですね。そうですよね。そんなもんですよね」
「いや、しないから」
「いえ、覚悟しました。どんな撮影でも頑張ります」
「あのね、オーナーは凄いお金持ちなの。そんな事はしないから」
「しない、やらない、儲かる。詐欺師の言葉ですよ」
「ほら、オーナーの通帳」
「え?」
「100億円あるだろ。これはほんの一部だから」
「いや、こんな紙を見せられても。それに、オーナーはどう見ても10歳くらいだし」
(天然娘なのに疑い深いんだな。しかも、まほろの本当の姿を認識できる。やはり豪運持ちか)
「なら、どうすれば信用する?」
「うーん。住んでる家を見せてくれたら」
「なるほど。お金持ちはだいたい凄い家に住んでるもんな」
「はい」
「分かった。お寿司を食べたら家に案内する」
「お願いします」
・・・・・
「おい、よく食べるな。大丈夫なのか?」
「モグモグ、ゴクン。大丈夫です。まだまだいけます」
「そうか」
「はい。今日の10万円分までは大丈夫ですから」
「まあ、そうだな」
(1人で10万円分食べるのかよ)
「私、いくら食べても何を食べても太らないしお腹壊さないんです」
「なるほど」
(もしかして、こいつの豪運は(歌)じゃ無くて(喉)なのか? その能力は歌と大食いなのかも。食べ物は喉を通るときに消化されてるんだろうな)
「泣き歌うま、大食い、テレビで大ウケ」
「そうだな。出れる番組は多いな」
「コンサート、CD、儲ける」
「だな」
(初めてのスカウト……天然娘のほうからスカウトされてきたんだが、最初でこんな大物をゲットできるとは)
・・・・・
「ほら、ここがオーナーの家だ」
「すごーい!」
「オーナーはこのマンションに5部屋持っている」
「ん? それって凄いんですか?」
「家で言うと5軒だ」
「うはー。ここって億ションですよね?」
「安い部屋で3億円から」
「オーナー、本当のお金持ちなんですね」
「信用したのか?」
「しました」
「オーナーが本当は子供なのは秘密だ。みんなには小さな大人だと言ってる。誰にも言うなよ」
「よく分かりませんが、分かりました」
(まあ、豪運持ち以外には凄い美人の大人に見えてるから、お前が事務所で「オーナーは本当は子供なんですよ」とか言っても、誰も信じないだろうけど。お前は本物の天然娘だしな)
【 終わり 】
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