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それぞれの名前
「俺の事は透と呼んでいいけど、お前らは……何と呼べばいいんだ?」
「私は幻で『げん』」
「女の子なのに『げん』で良いのか?」
「昔の名は捨てた」
「そうか。しかし、『げん』か。幻なら『まほろ』はどうだ?」
「まほろ! 好きな名前!」
「じゃあ、これからお前は『まほろ』な」
「うん」
「私は愛」
「愛は愛で良いな」
「うん」
「僕は『ない』」
「名前で『ない』は無いと思うぞ。男の子だから女の子を守るナイトは? カタカナで『ナイト』」
「僕は死ぬまで愛を守ると決めている」
「そうか。なら、ナイトだな」
「うん」
「透」
「ん?」
「透は私に素敵な名前をくれた。お礼に透と結婚してあげる」
「そうか……はあ!?」
「おっさんに聞いた」
「何を?」
「待って、思い出す」
「ああ」
「そう、透はどうてい。どうていって?」
「ぶふっ!」
飲んでいたコーヒーを吹いた透。
「げほっ。そ、それはな……」
「うん」
「男が結婚するまで大切に守っているものだ」
「僕もどうていを守る!」
「お、おう……結婚するまでどうていを守るのは大変かもしれないぞ?」
「愛と結婚するまで絶対に守る」
「愛って、隣の愛と結婚するのか?」
「うん」
「愛は良いのか?」
「私も無……ナイトが好きだから」
「そうか」
「うん」
「透、あと8年待ってね。私の18歳の誕生日に透に凄いサービスするから」
「あ、まあ、あの……うん」
10歳の女の子が思っている凄いサービスって、どんなだ?
透の住んでいる超高級マンションは、隣に建っている商業ビルと空中渡り廊下で繋がっている。
雨に濡れずにマンションから商業ビルへ行けるのだ。
デパート、飲食店、娯楽施設、いろんな店が入っている。
行動範囲が極端に狭い透には最適な環境なのだ。だからこそ、今のマンションを買ったのだが。
「よし、隣のビルにある高級スイーツ店に行くか」
「「「行く」」」
「あ、しかし、警備員とか他の住民がいるんだよな」
チラッと3人を見る透。
「大丈夫。私の豪運(幻)は無限大。豪運持ち以外にはおっさんに見えてる。愛とナイトは見えてない」
「なるほど。俺はいつもおっさんと行動を共にしている変な青年なんだな」
「ぼーいず・らぶ」
「いや、俺は普通に女が好きだから」
「良かった。男好きな男と結婚するのは私が困る」
「そうだな」
こいつ、どこまで本気で言ってるのか分からん。
高級スイーツ店でおっさんと2人か。
おいおい。周りは若いカップルや女子大生とかばかりだぞ。
「透、私達の存在感をすごく薄くした。みんな関心は持たない」
「まほろ、凄いな」
「私は凄い」
「お客様、こちらは当店からの特別サービスでございます」
「え?」
まだ注文もしてないのに、すごく豪華なフルーツ盛り合わせやケーキとかが運ばれてきた。
「愛への愛がなせる技」
「なるほど。この店から愛へのサービスなのか」
「そう」
「すぎたる愛はウザい」
「え?」
「私はこんなに食べきれない。どこの飲食店に行っても同じ」
「なるほど。毎回これは困るな」
「愛はほどほど、適量がよい」
「そうだな」
愛、本当に10歳なのか?
一応、ジュースくらいは注文しておくか。
店員さんに「食べきれないぶんは持ち帰りしていいですか」と聞くと、「本当は駄目ですけど特別ですよ」と言ってくれた。
これが愛効果なんだな。2日くらいはフルーツとケーキで腹一杯になりそうだ。
「僕はぜんぶ食べれるよ」
「あ?」
「そう。ナイトは大食いキャラ」
「え?」
「みんな、食べたいぶんだけ取って。あとは僕が食べるから」
「「うん」」
「あ、分かった」
ナイト、マジでこの量を食べれるのか? 普通の10歳の身体なんだが。
どんどん食べるナイト。
「まほろ、どんなシステムなんだ?」
「ナイトはどれだけ食べても気持ち悪くならない。食べたらすぐに消化されてると思う」
「なるほど。トイレは?」
「今、食べてるけど」
「あ、すまない」
「身体に必要なぶん以外は完全に消えてると思う。どんなに不味い物でもナイトは美味しく感じる」
「それは将来、愛は助かるな」
「え?」
「味付けを失敗したり焦がしても、ナイトがすべて美味しいと食べたら喧嘩にならない」
「なるほど。透は意外と頭がいい」
「どうも」
そりゃあ、10歳よりはな。
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