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 その日は、夏祭りの花火を最後まで見て、私と佐伯先輩は次の日。二日目の夏祭りに会う約束をして帰路に着いた。  家に帰ると、美緒と一美からLINEが届いていた。私の恋が成就したのを知っていた。そうね、二人は、ずっと見守ってくれていた。 美緒 やったじゃない、夏稀!涼太先輩と付き合えるわね! 一美 夏稀!二年越しの恋が叶ったわね、おめでとう!  二人の想いが籠もったLINEに、私も佐伯先輩への想いと二人への感謝で、胸が熱く、いっぱいになる。 夏稀 ありがとう、二人共。二人にも感謝しているわ 美緒 いやぁ、それ程でも 一美 夏稀が喜んでくれるのが、一番のお返しよ!  三人のグループLINEは、その後盛り上がりをみせて、夜中までずっと続く。そのグループLINEが終わると、私はベッドに座り込んだ。 「ふぅ――」  今日の事はいろいろあったなと感じる。佐伯先輩に想いが通じた。その事が、何より私の心を温めていた。 「明日も、佐伯先輩とデートね。今日はそろそろ寝なくちゃね」  ベッドに座っていた私は、寝る準備の為に動こうとした。その時、佐伯先輩にプレゼントされた白いぬいぐるみに目が留まった。 (先輩からの初めてのプレゼント……大事にしなくちゃ――)  ふとぬいぐるみに手を伸ばそうとすると、その〈ぬいぐるみ〉がピクッと動いた気がした。私は、一瞬戸惑ったけれど、見間違いね。と思って、ぬいぐるみを抱きしめようとした。  すると、その時、不思議な事が起こる。 「キュルキュル―、キュルルルルー!」  何か、声が聞こえた。その声は高く、とても陽気な声だった。……先輩から貰ったぬいぐるみの方から、聞こえたような……。  気のせいね、と思った次の瞬間――。 「キュルー、キュルルルルー!」  何かが、目の前を横切った。一瞬しか見えなかったけれど、それは、大人のウサギ程の大きさの、白い何かだった。 「キュルー、キュリルルルー!」  左横を見た。そこには、信じられない光景が映る。  なんと、佐伯先輩から貰ったぬいぐるみが、「キュルルルルー!」と鳴いて笑顔で空中を飛び回っていた。私は、呆気に取られて口をポカンと開けていた。 「えっ、何々?何が起こっているの?」  我に返ってみても、目の前の光景が信じられなくて、戸惑う。その先輩から貰ったぬいぐるみは、空中で止まると何かをし出した。 「夏稀ちゃん、こんばんは!涼太君と結ばれたね、おめでとう!」  なんと、それは喋り出した。何が何だか分からない私は、気が付くと、その〈何か〉に向かって問い質していた。 「何、何!?あなた、何者!?」  それは、こう答えた。 「僕は、キュリル。白いぬいぐるみの妖精の、キュリルだよ!」  白いぬいぐるみの『キュリル』という妖精は、そう名乗ると、また空中を楽しそうに飛び回る。信じられない光景に、不思議だったけれど、私は〈それ〉に問い掛ける。 「キュリル、貴方は何者なの?妖精って、どういう事なの?」 「僕はね、誰かの願いを叶える妖精なの!ぬいぐるみとして、お店屋さんに紛れて、願いを叶える為にこうしてここに居るの!」  キュリルはそう答えて、私の方に、真っ直ぐに視線を向ける。笑顔で私の目の前、空中に浮いている。 「キュリル、願いを叶える妖精って、何なの?どうして私の目の前に居るの?何してるの?」  私の大きな疑問。そんな疑問にも、不思議な何かは、堂々とニコニコ笑っていた。 「それはね、偶然なのか、縁なのか、夏稀ちゃんが僕を呼んでくれたの!涼太君が夏稀ちゃんにプレゼントして、夏稀ちゃんの前に居るの!それはね、運命なのかもしれないの!不思議な縁かもしれないの!夏稀ちゃんの魂が、僕を呼んでくれたのかもしれないの!」  キュリルはそう答えて、私の部屋をグルングルンと飛び回った。そして空中に浮いたまま私の目の前で止まると、こう言いだした。 「夏稀ちゃんの願いを、叶えてあげるの!」 「私の……願い――」  願いを叶える――素敵な事だけれど、私の願いは、既に――。 「キュリル、有難いんだけれど、私の願いはもう叶っているわ。佐伯先輩と付き合うっていう願いは、もう叶っているの」  そう言う私に、キュリルはニコニコ笑っている。 「そうなの?でも、大丈夫!僕も夏稀ちゃんの背中を押してあげていたの!涼太君と夏稀ちゃんが付き合える様に祈っていたの!」  キュリルは、「僕も、夏稀ちゃんを想って願っていたの!」と言って空中を飛び回っている。キュリルという存在が不思議だったけれど、本当に想って言ってくれているのが感じ取れた。 「私の背中を押してくれていたの?」  「そうなの!」と嬉しそうに答えるキュリル。そして、こんな提案をしてきた。 「じゃあ、夏稀ちゃんと涼太君が、ずーっとずーっと仲良くいられる様に祈ってあげるの!そうするの!」  本当に、そうなっていくかな? 「先輩とずっと仲良くいられる様に祈ってくれるの?」  それは、いつまでも佐伯先輩と居られるという事。考えると、心がほわっと温かくなってきた。 「それは、絶対ではないの。夏稀ちゃんと涼太君も想っていなくちゃいけないの。でも、願っていれば、叶うの!本気で願っていれば、想っていれば、きっと叶うの!僕も、お手伝いするの!」  本気で願っていれば、きっと叶う――。なんだか素敵な事だな、と思って、私は腑に落ちていた。 「分かったわ、キュリル。佐伯先輩とずっと上手くいくって願ってくれるのね。そうね、そう願ってくれるなら、いいかもしれないわね。じゃあ、宜しく頼むわ、キュリル」  了承に、嬉しそうにするキュリル。妖精は、人々の願いを叶える為に居るのかもしれない。 「分かったのなの!夏稀ちゃん素直でいいのなの!その願い、叶えるの!」  可愛らしいキュリルが、何だか愛おしくなってくる。私は、こんな不思議な妖精のキュリルを、いつの間にか受け入れていた。 「じゃあ僕は、明日の夏祭りと普段の時は、ぬいぐるみのふりをしているの!皆が驚かない様に、大人しくしているの!」  意外と謙虚なキュリル。でも、自信たっぷりに両手を挙げ、私を真っ直ぐに見ている。 「でも僕は、皆が悩んだり困っていたりしたら、助けてあげるの!人間の、願いを叶えてあげるの!素直で純粋な人が、妖精は好きなの!」  人々の為に、願いを叶える。確かに、そうなのかもしれない。妖精は、そんな存在なのだろう。 「分かったわ、キュリル。私の為に、祈ってくれるのね。宜しくお願いね、キュリル」 キュリルは「うん!嬉しいのなの!」と言ってまた空中をグルングルンと飛び回る。相当嬉しいらしく、凄く喜んでいる。 「じゃあキュリル、明日もデートだし、そろそろ私寝るわね」 「うんなの!僕も大人しく休んでいるのなの!」  私がさっき置いていた場所に戻り、キュリルは元のぬいぐるみの様に静かに佇みだした。私もベッドに入って、もう寝る為に横になる。 (今日は、いろいろな事があったわね――嬉しい事も、不思議な事も……)  普通なら驚いて信じない様な事も受け入れ、そして佐伯先輩との今日の、甘く、甘美な、心が温かくなる思い出に包まれ、その日私は眠りに落ちた。 (うん、夏稀ちゃんの幸せを願うの!キュルキュル―!)
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