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5
冷たくて甘いかき氷を食べ終え、私達三人はレオモール109の中で、ウィンドウショッピングを楽しむ。お昼もレストランでパスタなどを食べ、午後から再びウィンドウショッピングを始める。すると……。
「あっ、あれ涼太先輩じゃない?」
「あっ、きっとそうよ」
見ると、佐伯先輩がそこに居た。レオモール109の店の前で、何かを買い求めているようだ。
「佐伯先輩だ!」
佐伯先輩はどうやら『天体観測館』という店で、天文部で使う何かを買いに来たようだ。レオモール109には、こんなお店屋さんもあったのね。
美緒と一美が、私を促す。
「ほら、夏稀、声を掛けてきたら?」
「チャンスじゃない、夏稀!」
促され、私も「わ、分かったわ!」と返事をしたが、緊張で足が震えてきた。美緒と一美も異変に気付いた様で、私も助けを求める。
「美緒、一美、一緒に来て――」
美緒と一美が「しょうがないわね」と承諾して、三人で佐伯先輩の元へと向かう。話し掛けなさいよ、と私は促されるが、なかなか話し掛けられない。
すると先輩がこちらに気付き、私達に話し掛けてくる。
「池澤、それと神楽に篠原か。奇遇だな。レオモール109に買い物かな?」
一美が「そうなんですよね、三人で遊ぼうって」と上手く切り返してくれた。美緒は「夏稀の悩みを聞く事も兼ねてね」と際どく匂わせる発言をする。
「池澤、何か悩んでるのか?」
佐伯先輩に問われ、私は何故か返事に困ってしまう。一美が「夏稀、ほら、頑張って」と励ましてくれて、私は勇気を振り絞ってみる。取り敢えず、言ってみよう。
「佐伯先輩……明日って、部活動ですよね?私も部活なんで、明日部活が終わったら、校庭の木の前で会いませんか?」
永斗高校には、校庭を見守る様に、大きな欅の木が立っている。その木の前で話をしようという私。
「池澤、俺に悩みの相談かな?分かった。いいよ、付き合うよ」
佐伯先輩は、快く受け入れてくれた。先輩に優しくされて、やっぱり私は嬉しかった。
美緒は、話題を繋げようと先輩に質問してくれた。
「涼太先輩、ところで、このお店って、天文に関係のある店ですよね?何か買い求めていたんですか?」
佐伯先輩は嬉しそうに、それなんだけど、と喋り出す。
「この店、『天体観測館』って言うんだけれど、天文部に必要な道具が結構揃っててさ。今日は望遠鏡に使うレンズと、カメラの備品を調整する為に来たんだ」
三人で「そうなんですね!」と感心してみせる。やっぱり先輩は天文に関する事が好きなんだな、と実感する。美緒と一美も先輩に感心する様に頷いたり、いいですね、と口にしたり。
「ところで、三人はこの店にも用があるのかな?」
先輩は、素朴な疑問を投げかけてきた。私は思わず口にする。
「佐伯先輩がこの店に居たので、思わず声を掛けてしまいました」
先輩は目を大きくして、息をスーッと吸ってみせたが、直ぐにうんと頷いて、こう口にした。
「そうか、僕を見つけて声を掛けてくれたんだな。ありがとう」
素直な先輩に私は思わず心の中で、(こちらこそありがとう!)と返事をしてしまう。美緒と一美もうんうんと頷いて、先輩の優しさに触れていたようだ。
「じゃあ、池澤。明日の部活の終わりに、校庭の木の前で。またな」
佐伯先輩はそう言うと、スタスタと歩いていく。先輩が見えなくなると、美緒と一美が私に話し掛けてきた。
「夏稀、夏祭りには誘えなかったけど、一歩前進じゃない!」
「明日の部活の終わりに会うのよね。学校で誘うのもいいわね。明日は誘えるといいわね、夏稀!」
私も「そうね、明日頑張れるよね!」と二人の励ましに応えてみせる。落ち着いて振り返ってみると、心の準備が出来ている方が素直に話せそう。まだ告白の段階ではないけれど、その前段階となる夏祭りに誘うのも勇気がいる。しっかり心の準備をして、明日は頑張ろうと、私はその日、その時から心構えをする。
そして、その後は美緒と一美、私の三人でレ、オモール109のお店屋さんをウィンドウショッピングしたり、モール内のゲームセンターで写真を撮ったりと、休日を存分に楽しんだ。そして、二人が私にエールを送ってくれる。私もそれに応えたくて、その日は家に帰った後、夕食後、お風呂後、寝る前に先輩を想い、告白と、明日夏祭りに誘う事を考えて、夜、眠りに就いた。
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