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日が上り始め、澄んだ空気が森を包み始めた。
庄右衛門がゆっくり目を覚ますと、大蛇と戦った痕跡やら倒された木やらが目に入り、昨夜のことが夢では無かったのだと実感した。
(とんでもねぇ話だ……)
庄右衛門が上体を起こすと、太ももに重みを感じた。
見ると、昨夜助太刀してくれた少年・雪丸が、庄右衛門の太ももを枕にして眠りこけている。
美しい顔が、子供のようにあどけなくなって、可愛らしさまで出ている。
…が、庄右衛門には全く関係なかった。
「どこで寝てやがる‼︎」
首根っこを掴んで噛み付かんばかりに怒鳴ると、雪丸は驚いて目を覚ました。
「なんだよ、ビックリしたなぁ……!せっかく寝心地が良かったのに!」
「図々しい奴……!」
庄右衛門は呆れて手を離すと、さっさと散らばった荷物をまとめ始めた。
そしてすぐに立ち去ろうとする。
「ちょ、ちょっと!どこ行くの⁉︎」
「どこ行こうが勝手だろうが!」
雪丸が慌てて付いて行こうとすると、ギロリと睨み付けてきた。
雪丸は気圧されて一瞬黙るも、
「私と一緒に旅してくれるんじゃなかったのか?」
と残念そうな顔で見上げてくる。
「一言も行くなんて言ってねえよ。
付いて行って毎回あんな化け物に遭遇するハメになるなんて絶対に嫌だね!」
庄右衛門が唸ると、雪丸はむくれ始めた。
「何だよ……、昨夜、あの後気が抜けたのか眠かったのか知らないけど、そのまま倒れ込んだ庄右衛門を看病したのに。
また別の化け物が襲ってきても大丈夫なように、側についててあげたのに」
言われてみれば……。
庄右衛門が横になっていた場所には、水で湿らせた手拭いが落ちているし、自分を枕にしていたものの、その大きな刀を抱きしめていつでも動ける体制で寝ていた気がする。
「庄右衛門が心配だったし、一緒に来てほしかったから、頑張ったのになぁ…。」
下から大きな綺麗な目をウルウルさせて覗き込まれると、段々居心地が悪くなってきた。
やがて庄右衛門は視線を外して額を掻くと、
「わかった…腹ごしらえするまでは一緒に行ってやるから。礼に何か奢る。」
とため息を吐いた。
旅に着いていく、と言ってくれなかったものの、雪丸は嬉しそうに頷いた。
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