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突然、大蛇の口が視界から消えた。
「⁈」
庄右衛門はそのまま何事もなく地面に着地した。
大蛇は腹から緑の血を吹き出しながら、苦痛に激しくのたうち回っている。
そのすぐ側に、緑の血が滴る刀を構える者がいた。
「庄右衛門殿、あんた、ただのジジイじゃなかったんだな。
あんなに早い攻撃を木の上で避けるなんて、凄いじゃないか!」
昼間に会った少年だった。整った口元でニヤリと笑いかけてくる。
「まるで忍者みたいだなぁ!」
「お、お前、何やってんだ⁈」
庄右衛門は驚いた。まさか、大蛇の腹の傷は、この少年がやったというのだろうか。
庄右衛門が斬りつけたり、飛び道具や爆薬を打ち込んだり、最終的には渾身の蹴りも入れたのに、全く効き目がなかった。
それなのに、大蛇は苦しげに息を漏らして体を戦慄かせていた。
少年は、その身の半分もの大きさの太刀をぐるんと構えなおすと、庄右衛門が止める間もなく大蛇に斬りかかる。
闇の中で鈍く翡翠色に輝く刀身が閃いた瞬間、大蛇は声にならない悲鳴と共に、一刀両断になった。
それだけでは足りないと言わんばかりに、少年は刀の峰を手甲で器用に持ち上げ、体ごと刀を大きく回転させて下から上へ斜めに切り上げた。そこから足の勢いをそのままに、大蛇を斬りつけながら駆け巡る。
大蛇は成す術もなく大量に血を吹き、綺麗に輪切りになってその場に崩れてしまった。
「…!」
庄右衛門の顔が思わず引き攣る。
あんなに細身の少年が、大きな太刀で大蛇を仕留めてしまうとは。
オマケに、目で追うのが困難なほど足が速い。見事な剣捌きだ。
大蛇の緑色の血に濡れつつも、少年は無傷だった。
刀に付いた血をヒュルンとふるい落とす厳しい横顔が、昼間と違った別の美しさを持っている。
ふと庄右衛門と目が合うと、鋭い目が柔らかさを帯び、人懐っこく笑いかけてきた。
「間に合ってよかった。怪我は無い?」
「あ、ああ……」
庄右衛門は戸惑いつつも、やっと胸を撫で下ろした。
「……助かったぞ。もうダメかと思った」
「あっ、」
なんだ?と庄右衛門が見下ろすと、少年は申し訳なさそうな顔をした。
「いや、その……、そいつ、まだ死んでなくて……。だからまだ終わってないというか、助かってないっていうか……」
振り返ると、大蛇は輪切りにされているので動けないのだが、まだあのしゅーっという息も聞こえるし、少し見える内臓はドクン、ドクン、と動いている。
庄右衛門は絶句した。
「なんだそりゃあ⁉︎こんなになってもまだ生きてるのか⁉︎
お前でもこれ以上どうにも出来ないってのか⁉︎」
少年の肩を掴んで揺さぶると、少年は困り果てている。
「わ、私が持っているこの刀は、本当はちゃんと退魔できるみたいなんだけど、
なんか、えーっと、私が未熟なのかな?力を引き出し切れてないみたいで、今この状態が限界なんだ……!」
「んな中途半端なことがあってたまるか!じゃああの大蛇はどうなっちまうんだ⁉︎」
「死なないね……。
明日の夜には元の姿にまで回復しちゃうかも」
庄右衛門は足元が崩れていくような感覚に陥った。せっかく助かったと思ったのに、結局はまだ何も解決はしていないのだ。
「……」
絶望感で頭が痺れながら、ボンヤリと大蛇を見た。
すると、いつも逃げたり隠れたりするのに必死で、見ることが出来なかった尻尾が見えた。
蛇は全身が紫色で、腹にかけて黄色がかっている。
ところが、尾になるにつれて黒くなっていき、先端にいくと漆黒だ。
いくつもの棘が螺旋状に生えていて、その一つ一つの先端からも、厄介な毒がポタポタと垂れている。
(毒を飛ばす時は、尻尾から大量に出していたんだな。)
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