おやすみ

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海以外何もない田舎町に、俺は7年ぶりに帰ってきた。 年中潮の香りがするこの町はとても退屈で、俺は高校卒業と同時に家を出た。 まるで何もかも知っているかのように接してくる距離感の近いこの町の人々が俺は嫌いだった。 都会の大学に通って、それなりの企業に就職し、早く出世したくてがむしゃらに働いた。 都会の男になりたくて洒落たスーツにブランドの時計を身につけ、燃費の悪い外車に乗った。 気が付けばアラサー。 それなりの男になったと思うが、未だ独身、彼女なし。 心を許せる友達もいなければ打ち込める趣味もない。 たまに、実家の家業を継いだ高校時代の友達が、金はなくても家族で幸せそうな写真なんかをSNSにアップしているのを見て、なんだか虚しくなる、そんな年頃。 俺は、海の見える病室で、ベッドのそばに置いた椅子に座っていた。
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