おやすみ

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病室に駆け込んだ俺は、母ちゃんの姿を見て愕然とした。 俺の記憶の中の母ちゃんと同じ人とは思えないくらい小さくなった体。 光のない目。 薬の副作用で薄くなった頭。 ガサガサに乾燥した肌。 手を握ると、人間とは思えないほど冷たかった。 指先がぴくりと動いたが、握り返してくることはなかった。 苦しそうに浅く息を繰り返すせいで乾燥した唇は、割れて血が滲んでいて、痛々しいその姿に俺は胸が苦しくなった。   あれから2日、母ちゃんの目に俺が映ることはなかった。 意識があるのかどうかすら俺にはわからない。 予断を許さない状況がずっと続いていて、俺は病院に寝泊まりしていた。   俺は、水に濡らしたティッシュを母ちゃんの唇に当てた。 痛々しい唇をただ見ていることがつらくて、この2日間何度か行ったことだった。
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