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首からさげたエンブレムがトレードマークの星型ロボット『エブリン』は、いつもミキのお願い事を聞いてくれる。
「お願いエブリン! 小説のネタが欲しいの」
「ダメだよミキちゃん、それは自分で探さなきゃ」
エブリンはいつも、一度はそう言って拒む。しかしミキが上目遣いでジッと見つめると、すぐに態度を変える。
「もう、仕方ないなぁ。今日だけだよ?」
「ありがとう、エブリン」
「今日は、そうだね。たとえばお化けと交換日記をする話なんてどうだろう。夏はホラーが多いけれど、あえてそれを温かくしてみるのも、いいんじゃない?」
ミキは顔を輝かせた。学校で身につけた高速のタイピング技術を駆使して、次々とパソコンのモニターを文字で埋め尽くしていく。
書き始めてから三時間後、タタン! という音を最後に、キーボードをたたく音が止まった。
ミキが作品を書き上げたときにやる、癖のようなものだ。
「できた?」
「できたよ、どうかな?」
エブリンはしばらくモニターを眺めると、「ええ話や……」と言って涙をぬぐった。
感情的になると方言が出るのは仕様なのか、バグなのか。いずれにしても、素晴らしい作品であったことに違いない。
お礼にサクランボを渡すと、エブリンは飛び跳ねて喜んだ。山形県産の、極上のサクランボだ。
エブリンは遠い目をして、しみじみと語り出した。
「もう僕たちが暮らす未来には、こういう果物はほとんどないんだ。未来にはね、人類が生命を維持するために必要な、最低限のものしか……」
エブリンはそこまで言いかけて、フフッと笑った。ミキは涎を垂らして、寝息を立てている。
時刻は午前二時。日付を跨いでの奮闘に、エブリンは毛布をかけてつぶやいた。
「おやすみ。よくがんばったね……」
エブリンはしばらくそれを眺めると、小型パソコンを打ち始めた。
毎晩、ミキにおやすみを告げてから秘密の仕事が始まる。
レポートの作成だ。
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