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特使殿、ロマンスを楽しみたいのならば、止めません。ただ、TPOを弁えて頂きたい」
「ロマンス?」
「…ダーリンと呼んでましたね?」
「先程…王に呼ばれましたよ、確かに。…それが?」
「先程ではなく…!…いや、先程も含め、ですよ。…特使殿、貴方も王の側にいた時は何度か彼をそう呼んでいた。」
「ああ呼んだね?…うん…確かに。」
「……」
「……」
「?…ダーリンという愛称が問題なのかな?…宰相殿、どういう問題?」
「彼は建国間もない、このN国の王なのです!」
「知っている」
「半世紀ぶりに新しく生まれた国…故に世界の注目を最も集めている」
「そうだろうね。」
「取り掛かるべき課題は山積みです。無論、外交関係も、です。」
「…まどろっこしいね。…何が言いたいの?…」
「……」
「……………ふうっ」
「…何に落胆しているのです?…特使殿」
「…さっきの質問の答え、まだ貰ってない。」
「………」
「まあ、いいよ…真面目で現実主義者の君なら、ロマンスチストで内向きな大王の軌道を上手く調整つけてくれると思ったのに…結果はチグハグなやりとりが展開されるだけ、とはね…そういうため息。…王の手綱を引く事に苦労している様だね。…宰相殿」
「…貴方は何故、再度王の前に姿を現したのでしょう?」
「はは…質問攻めにする気満々だね…協会からの特使だときいているのでしょう?」
「…ええ」
「…君のことだ。私の身元照会はしたのだろう?…そして協会は何の躊躇も無く答えた。」
「ええ…貴方も複雑な環境に身を置いてた様ですね…貴方の一族とゲオ大王の一族に関係があるのですか?」
「…君はどっちと話がしたいの?協会からの特使?…ただの蛮族の女?」
「どちらも貴方なのでしょう?」
「…そうだ。あの頃から今この瞬間も、どちらも私。…バッチは外すよ。…せめて君が協会の存在を知らなかったあの時の様に私と話してくれないか」
「………ええ。」
「彼の…王の国盗物語を見届けたかった。…私の目当てである山場はしっかりと鑑賞させて貰った。それ以上の関心はない。…協会から白羽の矢が立ったとは、消化試合をこなせと言われた気分だったよ。」
「…王の…ゲオの国盗物語は、復讐劇でした。…そこから貴方は何を得たかったのですか?」
「…」
「…直接的に聞きましょう。貴方の復讐に関係があるのでしょうか?」
「…ふふ、本当に質問攻めだ。いくら私が言葉を並べても、信じないだろう?
言葉よりも行動に人間の本音は出る、君のモットーだ?」
「…」
「君とは、昔からソリが合わなかったが、そこは強く同意するよ」
「…貴方が急に姿をくらましてから、ゲオは、征服王ではなくなった。今の彼はただの恋する乙女なのです。」
「お相手は?」
「貴方です」
「…………………………合点がいった。…ゲオや君の態度。…点と点が線で結ばれる…こういう感覚なんだね…由々しき問題だ」
「さて、本題ですが、先ずはこの問題に対処せねば、他の重要課題への対処など、今の腑抜けゲオには無理なのです。…貴方のお力添えをお願いしたい」
「…旧知の友のお願いは断れない。…協会が私を寄越した理由の一つでもあるし。
うん、任せるといいよ。…ダーリン。」
「…ダーリン?」
「さっき山場の話したでしょ?…君、そのとき王の側にいた?」
「いいえ、玉座に近い廊下をを死守するのが精一杯で…」
「…だよね、確かに居なかった。…山場…そう…宿敵、前王ロロの玉座に対峙する直前迄は、ゲオは勇猛な征服王だった。ロロの仮面を剥ぎ取り、正体を知ると愕然としてたよ。」
「同族に生き残りが居た事も、敵が同族であった事も…想定外過ぎた様ですね。」
「ああ…前王を拘束後も…ゲオは私に抱きついてブツブツ言っていた。『俺は何をしてきたんだろう、俺の望んでいた結果がこれか』ってね。」
「…」
「それから己の中に篭りがちになった。牢に居た状態に似ている、と私は思った。
…つまり、ゲオの腑抜状態は、ロロの仮面を剥いだ瞬間から始まっていたよ」
「内向きな彼も、勇猛な彼…どちらも粉うことなきゲオ大王だよ。衝撃的事実が入れ替わりのスイッチになってしまったなら、同等程度の衝撃を与えればいい。…ゲオには新しい恋が必要だ。」
「…貴方自身はゲオを…王を受け入れる気は無いのですね?」
「………面白い事言うね。」
「…目が笑ってません。…面白いと思って無いでしょう?」
「…うん。まさか、私を彼にあてがおうと画策してた?切羽詰まり過ぎだ。」
「…」
「バットアイデア。」
「…貴方と夫君は仮面夫婦と伺ってます。…状況を変える良いチャンスでは?」
「…」
「…聞いてますよ?…離婚の件で派手な喧嘩を協会の公式電波にて皆様に披露してしまったと」
「…そんな事まで協会は答えてやるのか…ゴシップ好きの大衆紙さながらだね。」
「離婚の件、困ってらっしゃるのでしょう?今をときめくゲオ大王の熱い要望で妃に…」
「いやいやいや、話には乗らない…怖いな、君」
「…罰が怖い?」
「乗らない、と言ったのは、夫の保護を失う事によるそう言ったデメリット等の外的要因では無く内的要因。」
「……夫君に情が残ってらっしゃる?」
「…切羽詰まり過ぎって言っただろう?…そもそも王族の結婚は外交問題だろう。…ならば私をゲオ大王の隣に添える事に意味はないよ。…私自身に外交問題に使える価値はない。勿体ない選択をするな。」
「…」
「…相当参っているんだね。…ゲオは手を焼く時は本当に焼くからね…うん、まあ、任せてよ、ダーリン。」
「…ずっと気になってましたが、貴方のそのダーリンというのは、どういう意味で使っているのですか?」
「…」
「…聞くほどでもないと流してましたが、昔から気になってはいましたよ?」
「…君と話して確信した。…私が過ごしたE語圏内のZ国では、親愛の情を込めて友人に使う。N国はJ語圏内だったね。J語圏内では、恋愛対象者にしか使わない。合っている?」
「…そうですね。我が国では輸入された言葉が独自の解釈で使われてしまったって事ですか?」
「…同じくJ語圏内のP国の友人とも、似たような反応示された事思い出した。J語独特の解釈なんだね。…その友人も、君の様にドン引きしていたから。」
「…なるほど、互いに疑問が解決できて良かったです。」
「…それもゲオに勘違いさせてしまった原因かな?…彼の誤解も解かないと、ね。…じゃあ、また後ほど」
「ええ。………頼りにしてますよ。」
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