0人が本棚に入れています
本棚に追加
出逢い
声をかけようかどうか、凄く迷う。
こんな夜中に、自分以外の高校生がこんなトコロにいるのはヤバい気がする。
携帯を開けば、画面には午前2時の表示。
明け方の繁華街のコンビニで、クラスで1番の秀才君が、学校では見ない姿で気だるげに商品を吟味している。
でも、目があっちゃったしな…。
あれは、商品を吟味しているのか、はたまた自分と同じく対応に当惑しているのか。
でもさ。と、自分に言い訳をしつつ、相手を伺う。
グレーのズボンは、スーツの片割れっぽいし、シャツは黒のVネック。耳にはピアス。
上にズボンと揃いのジャケットを着れば……。
「ホストじゃん。」
まあ、ここがホスト通りなのもある。
浮いてたり、困ってたら声掛けたけど、違うなら関わらないに越したことはない。何せ、こちらは同学年の女子高生。
「高校生がこんなとこやばくない?」
と言えば、「嫌、おまえもだろ。」となる。君子危うきに近寄らず。とは、この事なのだろう。
しかし、まあ。何とも様になってますね。と、苦笑いしつつ、ドリンクコーナーへと距離をとる。あいつ、名前なんだっけ?てか、よくホストやりながら勉強出来るなー。頭の出来が違うのかと、自嘲する。
ドリンクとサラダを手に取り、デザートで結構迷う。ひとつに絞るのは、私が苦手とする行動だ。あわよくば、全部欲しいタイプ。
やっと決めたデザートの決めては、カロリーだった。こんな時間だしね。ふふふっと、笑いを堪えて会計を済ませる。店内に彼の姿は無くなっていた。
まあいいか、とコンビニを出た所で店内で見なかった姿が目に入る。
「ねえ、澤田さんだよね?」
そして、声をかけられてしまった。振り向けば、壁に持たれながら満面の笑みを浮かべている。
「ん。えっと。違います。」
「違わないでしょ。まんまじゃん。」
黒い髪に黒い瞳のまま、到底高校生とは思えない表情で嘲笑う。まあ、こちらは学校でも化粧をして、呼び出し常習犯となっても気にせず学生生活を送っているので、おおきな違いは確かにない。
「他人の空似です。」
「やっぱり、澤田さんでもマズイのかな?」
『でも』とは?
暗に、学校で澤田香澄がヤクザの代表の娘だと知らない人はいないと言いたいのだろうか。
「私は何も不味くないよ。保護者同伴だし、タバコも吸ってないし?」
駐車場の端に止まってある黒塗りの車を指さし、そのまま彼の指の間で煙る煙草を指さす。
「あー。俺のがヤバいね。それは。」
と、全然困ってない、満面の笑みを向けられる。
「言わないよ?別に。興味無いし。」
私が1番家庭の事情がある事に、理解がある家庭だと思う。
「あのさ…。」
凄く嬉しそうに笑ったあと、何か考えるように言葉が止む。
「何?」
まだ何かある?と言う言葉は飲み込んだ。
「んー。ありがとうって言うのと、おやすみって言うのどっちにしようか迷っただけ。」
「あー。」
これ、彼のテクニックなのか?と思うくらい、照れたのかはにかんだのか微妙なラインの笑みを向けられる。
「おやすみでいんじゃない?」
目にはよく、心に良くないものを見てしまい、強制的に話を終わらせる。
「じゃっ。」
そう言って足早に車へと向かう。
車の後部座席にどかっと音を立てて座ると、バックミラーからニヤニヤとした目を向けられる。
「ヤバっ。青春っすね!今絶対、落ちたやつだろ!!」
「マジで、チョロいっすね。まあ、大分顔の良い奴だから、仕方ないっ。」
運転席と助手席からの冷やかしに、睨みつけるだけで何も言えない。
黒塗りだから見えてないと分かっていても、微笑んでこちらに手を振る男にも視線も向けられない。
「煩い、早く車だせよっ。」と更に油に火を注ぐだけで精一杯だった。
最初のコメントを投稿しよう!