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意表
出迎えてくれた男を前にして、青島はため息が出そうになるのを、必死で堪えた。
表情がこわばっているように見えるが、青島から見れば当然のように若く、サッカー部のキャプテンだったというのを抜きにしても、十分いい男だった。
そして、それは待ち構えていた宮下も同じで、何が父親だと未来へ、文句のひとつでも言ってやりたい心境だった。
目の前にいる、ひと回り上だと言う男性は、確かに貫禄のようなものはあるが、それは年齢とか体格などから感じさせるものではなく、元々持ち合わせている人間性だろうと思えた。
だいたい40代とは思えない若々しさだ。
一対一で対峙しなくて良かったとお互い思いながら、宮下の上司がいる手前、形式的な挨拶を済ませて着席した。
「工場がこちらにあるのは知ってはいたのですが、足を運んだのは初めてです。とても良いところですね。」
青島は思ったままを、素直に口にした。
「ええ。何でもそうかもしれませんが、やはり食に関係する物ですから、環境も大事です。丹精込めて作られた食材の良さを、最大限に活かせる調理器具を作りたい。それには最適な所です。」
上司が真摯に答える隣で、宮下は相槌を打つように頷きながら聞いていた。
「炊飯鍋で炊いたご飯は、召し上がりましたか?」
「はい。3種類頂きましたが、正直どれも美味しかった。凄いですね。高級炊飯器はブームとも言えるような状況で、ここ数年、商品開発に余念がないでしょうに、それに勝るとも劣らない商品を完成させるには、余程のことだったでしょう。」
青島の言葉は、思いがけず宮下の胸を熱くした。
「高級炊飯器もそうですが、よく言うかまどで炊いたご飯さえも、食べたことなかったんです。しかもこの類の商品は結構あるんですよね。毎日のように目にしていたのに、何も考えずに食べていたことに気付かされたところから始まりました。」
そして宮下は、上司から促されるように、完成までの経緯を青島に、説明して聞かせた。
商品開発に携わった一員として、熱心に話をするそんな宮下の様子に、青島は好感を抱き始めていた。
「お忙しいところ貴重なお話を聞かせて頂き、ありがとうございました。先に来たメンバーもかなり感銘を受けているようでした。皆さんの思いを伝えるバックアップが出来るように、こちらも良いものを作ります。」
話を聞き終えた青島は、立ち上がって深々と頭を下げた。
「いやいや、青島社長。こちらこそ、遠いところまで足を運んでくださってありがとうございました。」
恐縮する上司と一緒に、宮下も頭を下げる。
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