月見

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 ガラス格子の窓を開けて、夜の風でも吹き込んでこないかと敏明は試みたのだが、なんの空気の流れもなかった。 「暇だよ」  敏明が云い 「暇って云うなよ。余計に暇が身に染みるだろう」  と、兄である正明が云った。 彼らにはもう、畳に寝転がって月を眺めることくらいすることがなかった。 ほんの少しだけ、完全には足りないような感じのする月。 満ちてゆくところなのか、欠けてゆくところなのか、それすら兄弟にはわからない。 ただただ兄弟は暇であった。 すべきことがないわけではない。 中学一年の敏明は秋の中間試験が明日に控えているし、高校二年生になる正明に至っては、試験はすでに始まっている。 ふたり揃って一学期の成績が振るわなかったため、今回は試験期間の勉強中はスマホ禁止の命令が下った。 勉強時間が終われば返してもらえるが、いま兄弟の手元にスマホはない。 スマホがないということは、することがないというのと同じことだ。 友人ともつながれないし、ありとあらゆる娯楽からも切り離されてしまった。 まるでこの世にふたりきりしかいないみたいだ、と敏明は思う。
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