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1 彼らとの馴れ初め
「スミ、卵焼きもあげる。はい、あーん」
「え、あ、あーん?」
「あ! さっきから理久矢ずるい! 俺もハンバーグひと口あげる。スミくん、あーんして?」
「おいおい、駆、スミのペース考えろよ」
自分のお弁当に手をつける暇がないくらい、次々とおかずを口に詰め込まれる。一体、何が起こっているのかさっぱり頭が追いつかない。
だって、こんなイケメン集団の中に自分がいるなんて――。
数十分前は、確かにいつも通りの学校生活だったのだ――少し困ったことを除いては。
高校も三年に進級して数日、すでにクラス内にはグループが確立されてしまい、人見知りの僕は一人残されてしまっていた。
別に一人になることは慣れているし構わない。お昼休みも教室で、黙々とお弁当を食べてやり過ごせばいい。
だが今日はある困難に直面していた。
トイレで席を離れている間に、自分の机と椅子が使われてしまっていたのだ。しかも、それはクラス内でもとても目立つ、イケメン三人組のグループによって。
席は諦めて別の場所で食べればいいとして、問題はカバンからお弁当をどうやって取り出すかだ。
彼らが集まってご飯を食べているその輪の中に、僕のカバンがある。
無言で取るのはなんだか不自然というか失礼な感じだし、こんなキラキラした集団に僕なんかが声をかけるのも、おこがましくて躊躇してしまう。
しばらく離れたところで立ち往生していたが、お昼ご飯を食べないのは午後の授業が非常に辛い。
授業中お腹が鳴っても恥ずかしい。覚悟を決めるしかない。
意を決して彼らに近づく。
「あれ、君って遠藤くんだっけ?」
僕の存在に気づいたグループの一人、清水駆が声をかけてきた。
なんで僕の名前を知っているんだろう。というより、清水くんが僕なんかに爽やかな笑顔を振りまいていることに戸惑ってしまう。
「あ、うん」
「気になってたんだけどさ、遠藤くんて、下の名前、何て読むの?『澄む』って字だよね、スミ?」
「っ、そうだよ」
親以外の人から下の名前を呼ばれたことがないため、急に呼ばれてドキッとした。
「へぇー、スミくん。きれいな名前だね。どんな人だろうって、前から興味があったんだ。名前の通り、きれいな子だ」
「……」
何て返事をしたらいいかわからず言葉に詰まる。
きれいだなんて言われたことないし、自分よりも何倍もきれいな人にそんなこと言われても素直に受け止められない。
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