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3 プライベートレッスン
一歩、また一歩と地面を蹴り上げ足を前に出すたび、不思議と呼吸が落ち着いてくるのが分かる。
だがそれに伴い、太ももの付け根がズキズキと疼いてくる感覚もある。
それでも自然と体は前進し、心地良い風を切るのをやめられない。
僕は白石くんからもらったランニングの練習メニューを日々こなし、今は自主的に五キロの距離に挑戦している。
ここ数週間の頑張った成果を試してみたくなったのだ。
体中疲弊しているが、なんとかこの距離を走り切ることができた。しかも来週までの目標だったタイムを達成できて、とても満足だ。
「スミ、お待たせ」
部活終わりの白石くんと約束通りいつもの公園で落ち合う。
「ぜんぜん待ってないよ。白石くんも土曜なのに、朝から練習お疲れ様」
「ああ、ありがと」
練習終わりだからか、白石くんは少し汗ばんでいた。だけど汗の滴る様が絵になっていて、それすら彼のかっこよさを演出する一部のように感じてしまう。
ふと良い香りがフワッと鼻をくすぐった。
一見クールな白石くんだけど、ごく稀に無邪気な子どもみたいに笑うことがある。そんなところが、爽やかなシトラスの香りとすごくマッチしている気がした。
「今日はもう練習メニューこなしたんだな」
「うん。五キロにも挑戦して、三〇分ちょうどだったよ」
「すごいじゃんか。スミは頑張り屋さんだなぁ」
褒められると同時に、頭をわしゃわしゃされる。
長身で大人っぽい彼と、小柄で童顔な僕。傍から見たら兄弟だと勘違いされそうだ。
「そしたら今日はフォームの確認をしよう」
自分も部活で忙しいのに、こうして今日も僕のために練習に付き合ってくれている。面倒見が良くて、本当に頼りになる。
「うーん、蹴り出す時に力みすぎてる感じがするな。もう少し力抜いていい」
「あれ? 前はそんなことなかったのに」
正しい走り方を見てもらっているが、いつもはそんなに注意されることはない。
「膝周り、こわばってないか?」
そう言って白石くんが僕の太ももを触る。
「いっ!」
ピリッとした痛みで思わず声が出てしまった。
白石くんが真剣な顔をして僕をじっと見つめる。
「もしかして無理に走った?」
「いや、無理をしたつもりはないよ。今日はなんか走るのが気持ち良くて……」
「ああ、それはランナーズハイだな」
「えっ、何それ?」
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