1 彼らとの馴れ初め

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 確かに、芸術肌の理久矢くんの言っていることは僕にはよくわからなかったが、それは他の二人も同じなんだと安心する。段々と緊張がほぐれてきたようだ。 「スミくんって、笑った顔、可愛い」  突然、清水くんが何か言い出した。 「え? 今更? 俺は昼飯食べ始めた直後から気づいてたけど」 「いーや! 俺の方が早く気づいてた」  清水くんと理久矢くんが言い合いを始めた。笑った顔が可愛いなんて初めて言われたが、そんなことないと訂正する隙もなく二人は続ける。 「俺がスミくんに最初に話しかけたんだよ。ほとんど喋ったことはなかったけど、絶対笑ったら可愛いって見込んでた」 「いや、結果的にスミを笑わせたのは俺だから」 「はぁ? 今はどっちが早くスミくんの可愛いさに気付いたかの話してんだろ? 論点すり替えるなよ」 「すり替えてねぇよ。俺が笑わせたから気付いたんだろ? じゃあ俺に功績があるってことだ」  お互いの口調が段々強くなってきた。  あれ、さっきまでの和気藹々とした雰囲気から、少し険悪な感じになってきたみたいだ。どうしよう、僕が一緒にいるせいだろうか。  居た堪れない気持ちに気分が少し落ち込む。 「おいスミ、気にすんなよ」  左側から小さく声をかけられた。白石くんだ。  今日初めてまともに話したが自然に僕の名前を呼んでいる。適応力が高いなと思いつつも、名前を呼んでもらえたことにドキっとする。 「これ、いつものことだから」 「え? そうなんだ」  これ、というのは清水くんと理久矢くんが言い合っていることだろう。言われてみれば、どこか慣れたような独特の呼吸があるように思える。 「理久矢より俺の方が絶対スミくんと仲良くなるし」 「カケちゃんは基本、浅く広くの交友関係だろ? 深ぁーい関係になるのは、俺の方が得意だから」  理久矢くんの「深ぁーい」という言い方が妙に色っぽく聞こえてしまう。  でもそこまで自分と仲良くなろうとしてくれていることがとても嬉しい。夢みたいだ。  まだ言い合いは続いているようだ。しかしこれがいつものことだと知ると、微笑ましく思えてくる。  二人の争いを温かく見守っていると、ふと理久矢くんがこちらを見た。 「スミ、唐揚げ好き?」 「うん? 好きだよ」
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