2 スミ取りゲーム

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 抑揚がなく平坦な声なのは相変わらずだが、吐息が耳にかかるくらい近くで囁かれ心臓のBPMが急上昇する。 「はいはい。もうじゃれてないで次のステージ行くからねー」  駆くんがゲームを操作し再開の合図をする。  だが僕にとってはさっきからゲームどころじゃなかった。   白石くんの一挙手一投足に、耳が敏感になってしまったのだ。  彼の操作していたキャラクターが一度倒されてしまい白石くんが大きなため息をついた時、その息が僕の耳裏にかかる。  また急に耳元で何か囁かれるんじゃないかと思い、そっちに気を取られてしまったことで、僕は敵の攻撃を(かわ)すべきところで隙のある大技を繰り出してしまった。  その後も操作ミスであっけなく倒され、最後の残機を失ってゲームオーバーになってしまう。 「あはは、今スミくん自爆した?」 「……うん」  駆くんがケラケラと笑っている。自分の下手さに呆れるが、これに関しては白石くんのせいでもあるのだ。  三人はまだまだ戦っている。  彼らの戦いぶりを観戦したところでレベルが違いすぎて、参考になるわけでもない。  手持ち無沙汰になってしまった。  ふと僕の体を挟んでいる白石くんの脚に目が行き、膝のあたりをそーっと撫でてみた。  やはりズボン越しでもわかる、無駄のないしなやかな筋肉だ。 「......おいスミ、気が散る」  白石くんから、意外にもくすぐったそうな反応があった。  だとしたらさっきの仕返しだ。  いつもより少しだけ彼の声に感情が乗っていることに、悪戯心(いたずらごころ)が働いてしまう。  僕は膝から太腿に手を滑らせ指でくすぐる。 「白石くんて、さすが陸上選手の脚って感じだよね」  これは本心である。  彼は長距離選手として一年の時からよく表彰されていた。大学からスポーツ推薦の話も来ている噂もある。  何より一緒に過ごすようになってから、練習も食事管理も本当に努力しているのを目の当たりにしているのだ。  くすぐって少し困らせようと触り始めた僕の手が、いつの間にか筋肉の質感を丁寧に確認するかのように触れてしまっていた。 「よっしゃオミ倒した!」  駆くんがそう叫んだ瞬間、白石くんがコントローラーをテーブルに置く。どうやらゲームオーバーになってしまったらしい。  くすぐったいのが弱点だなんて可愛いな。  仕返し成功だと思ってワクワクしながら白石くんの方を向く。 「……やったな?」
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