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――初めて見る、少し照れた様子の白石くんの顔に心がときめく。
いつも感情をあまり表に出さない彼だが、声の調子も高くなって表情も緩んでいる。それが嬉しくて、もっと引き出したくて、つい僕らしくないが対抗してしまった。
「先に仕掛けたのは白石くんだって」
「へぇ、でもスミってそんないやらしい手つきで人の膝くすぐるんだ?」
「い、いやらし、って」
「意外だなー。可愛い顔して」
「違うよ! 白石くんの脚、つい触りたくなっちゃって」
普段から人の脚をベタベタ触る人間だと思われては困るので、必死に弁解する。
しかしこれでは白石くんの脚を変な目で見ていたのを、自ら告白しているのと同じだ。僕は言い訳を続ける。
「いや、ほんと、変な意味じゃなくて! こんな綺麗な筋肉、一朝一夕じゃできないよなって感心しちゃって……。僕も最近ランニング始めて、でも全然筋肉つかないから、羨ましいなって」
やっぱ気持ち悪いやつだと思われたかなと白石くんの反応を待つが、「へー、ランニング始めたんだ?」と心配事とは別の方に興味が向いたようで安堵する。
「あ、うん。僕部活とか理久矢くんのバンドみたいに夢中になれること特になくて……、でもこんなかっこいい三人と一緒にいさせてもらってるんだから、僕も何か頑張りたいなって思ったんだ。ランニングならお金もかからないし、一人でもできるし、あと、……今度のマラソン大会に挑戦できるかなって」
僕の高校では毎年マラソン大会が開かれ、十キロの距離を走る。
一、二年生のイベントだが、希望者は三年でも出場できるのだ。
下から数えた方が早い順位しか取ったことはないが、キラキラした彼らを見て自分なりに努力して結果を残したいと思った。
言いながら少し照れ臭くなって、つい下を向いてしまう。
「いいな、それ」
白石くんが僕の頭を優しく撫でる。
「俺スミのそう言うところ、好き」
「好き」の部分だけ耳元で囁かれた。
予想外のことに心臓がドキドキ脈打っている。だって、好きって……友達同士で言うものなのかな。
顔を上げると白石くんがニヤリとこちらを見ていた。
「それなら協力するよ。練習も付き合うし、タイムも見てあげる」
「え、そこまでは悪いよ」
元々は僕個人の問題なのに、白石くんの時間を奪ってまで成果を出しても本末転倒な気がして気が引ける。
「俺が協力したいんだよ」
そう言って白石くんは、今まで見たことない満面の笑みをこちらに向けた。もちろん断ることなんてできなかった。
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