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次に現れたのは、この国きっての女性歌手。
女はこう考えた。幼い頃の姫は、母親である王妃から子守唄を歌ってもらっていたに違いない。眠るときに聴いていた子守唄を、澄んだ美声で聴かせれば、さすがの姫だって眠りにつけるはずだと。
女は、自慢の美声を披露した。
姫の寝室はオルゴールの粒のような歌声に包まれていった。誰が聴いても心が洗われるだろう歌声。それでも姫は眠れなかった。
女の美声を遮るようにニワトリたちが鳴きはじめ、またもや朝日が顔を覗かせた。
それから何人もの挑戦者が姫に挑んだが、誰ひとりとして、姫におやすみを言わせられる者はいなかった。
諦めのムードが漂いはじめたある日、ひとりの老婆が名乗りを上げた。
「わたしが眠らせてあげよう」
まるで魔女のような風貌。これまでの挑戦者とは明らかに漂うオーラが違っていた。素性さえも明かさないその怪しさが、逆に姫の期待を高ぶらせた。
「どんな方法で眠らせてくれるのです?」
「簡単なことさ。姫がおやすみを取り戻すかわりに、あるものをひとつ奪う。たったそれだけで、姫には安眠が訪れる」
「あるもの? それは?」
「それは言えない。まぁ、安心しな。命までは奪いやしないから」
不敵な笑みを浮かべながら、老婆は姫に小さな薬瓶を手渡した。
「それを飲めば今宵はぐっすりさ」
何を奪われるのだろうと不安になったが、背に腹は代えられない。覚悟を決めた姫は、それを一気に飲み干した。
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