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「痛くないよ」
君はまたそう言った。私を庇って、野球部のボールを頭にぶつけたのに、大丈夫、と微笑む。
そんな危ういところが、いつも怖くなる。自分のことには鈍感で、全部感じないみたいに。躊躇なく痛い方に進んで、私の前ではいつも笑う。
ただの幼馴染に、そんな価値はないのに。
「なんでまた…」
「紘は心配性だなー」
私の気も知らないで、君は目を細める。
「もっと自分を大事にして」
幼い頃から一緒にいた。親同士、仲が良かったし、私は要が好きだったから。
私よりも大人で、なんでも他人優先の君。でも何故か、私の隣を唯一譲らない。それをどう受け取ったら良いのか。
君は私を簡単に忘れられる。私の隣にいても、好きとか、そういう素振りは見せないし。何より、私の想いに気づかないのだから。
「ねえ紘。早く帰らないと、暗くなっちゃうよ」
「分かってる」
空は橙色で、君の頬に落ちる影も同じ色。君のふわりとした黒髪は、光に透けて金色に輝く。真っ黒の瞳だけが変わらない。
「要、夜ご飯何が良い?」
「お茶漬け」
二人が恋人なら、きっと甘すぎる会話。
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