朝の寄り道

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「おはよ、紘」  張り詰めるような冷たい空気。その風に頬を赤く染めて、要が笑っている。 「おはよ」 「あれ、今日はマフラーしてないんだ。寒くない?」  言いながら自分のマフラーを外そうとする要を、慌てて止める。 「平気だから。大丈夫」  少し不満そうな顔。ほっと息を吐いて、要を追い抜いた。首元を風が吹き抜け、思わず首をすくめる。  要の近くに寄らないように、要を避けて歩く。私を庇って要が怪我をするなんて、そんな重荷になりたいわけじゃない。 「紘っ!」  腕が強く引っ張られて、気が付けば要の腕の中。目の前を車が勢いよく走り去る。要の優しい柔軟剤の香りに包まれて、強ばった体の力が抜けた。 「ちゃんと前見て歩いてよ。危ないから」 「……ごめん」  腕を緩める要に、それだけ言って、私は俯いた。  ああまた、私のせいで。  人混みの中を進んでいく要の背中は遠くて、伸ばした手は届かない。この距離が、私達にはきっと丁度良い。人混みに隠れて、私は走った。  
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