朝の寄り道

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「寒くない?」  ふわりと背中が暖かくなった。見ればそれは要の制服の上着だ。 「寒いよ、ばか…」  これが私の精一杯の甘えだ。寂しいと言いたいのに。 「ごめんね、遅くなって」 「…早すぎだよ……」 「怒ってるでしょ、その声は」  隣に腰掛けながら、要はそう言った。 「…私は自分に怒ってるの」 「なんで?」 「だって、要が怪我するのは、私のせいでしょ。さっきも、一歩間違えたら取り返しのつかないことになってたかも…」  要の隣に私はいらない。  その言葉は、私に一番刺さった。 「ばかだなぁ、紘は」 「俺が、どうして紘を守ると思う? 紘が好きだからに決まってるでしょ。紘のことだから、俺は痛いのも全部平気なんだから」  それは、早口で、私に都合良く聞こえる。でもこの優しい声は、嘘をついていない時の声。 「俺、知ってるよ」  要はじっと、私の目を見つめて微笑む。少し、意地悪な笑みだ。 「紘が、俺を大事に想ってくれてること。俺のことたくさん、考えてくれたでしょ」  燃えるように、頬が熱くなる。でも、要から目を逸らせなくて、私は固まった。 「心配させてごめんね」  また、要の柔軟剤の香りに包まれた。さっきよりもずっと優しく。 「あったかいね」  耳元で要が囁いた。暖かさに鈍いくせに、どうしてこんな時にだけ。 「ねえ、紘…」 「ん…?」 「俺は痛いのとか、感覚に鈍いけど」  腕を緩め、額と額を合わせて笑う。 「紘は俺の気持ちに鈍かったね」  照れた顔を隠して、私は要を抱き締める。要は、優しく髪を撫でてくれた。
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