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◇◇◇◇◇
今が朝なのか、昼なのかわからない。
しかし俺のリズムは決まっている。
食事。食事。風呂。
食事。食事。風呂、だ。
次は二回目の食事だ。
それが朝ご飯なのか、夕ご飯なのかはわからない。
しかし確かなのは―――。
もうすぐ、また少女が来る。
数時間前に摂った食事から、ずっと考えていた。
俺が殺した男。
それはヘラの夫で、少女の父親。
その見解が間違っていないとすると。
ヘラも少女も味方ではない。
それどころか、俺に対して恨みを持っている可能性が高い。
問題は――――。
ヘラと少女がグルかどうかということだった。
不仲はポーズで、本当は二人で手を組んで俺に復讐をしようとしているのか。
それとも普段不仲ではあるが、俺に復讐するために、今だけ協力し合っているのか。
どちらにしろ―――。
俺はこの部屋に軟禁され、監視カメラさえついている。
食事を得る手段が少女しかない以上、自分は今、完全に命を握られている。
彼女たちのさじ加減で自分は死ぬ……?
どうやったら生き延びられる。
どうやったら、ここから出られる―――?
いや、そもそも、
俺にそんな価値はあるのか?
自分が殺した家族に監禁され、償うこともせずにここを逃げて生き延びる価値が……。
わからない。
でも―――
何もわからなければ何もできない。
なんとしても記憶を取り戻さなければ。
取り戻したうえで、判断を下さなければ。
彼女たちにも、自分にも。
俺は臙脂色の本「ギリシャ神話大全」をテーブルに置いた。
こうして置いておけば、少女がグラスに水を注いだ時、俺の顔が映るはずだ。
自分の顔を見て思い出せることはけして多くないかもしれないが、やってみる価値はある。
凝り固まっている記憶を融解するきっかけになれば―――。芋づる式に何かがわかるかもしれない。
早く来い。
でも。
出来れば来るな。
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