1人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな阿呆なことを考えながら、僕は受け取ったハンドボールを持って投擲ラインの手前に立った。フゥと静かに息を吐き出し、十分な助走をつけ――渾身の力を込めて放った一投は、尊の半分にも満たない距離で情けなく地面に墜落した。
ああ、これは尊のヤツ、絶対に馬鹿してくるだろうなぁ……
あたかも調子が悪かったというように小首を傾げながら振り返ると、親友は醜態を晒した僕のことなど全く見てはいなかった。
何事だろうと思い、こちらに無言で背中を向けている親友の視線を追ってみると、その先では女子が50m走の計測を行っているところだった。
うちの高校の体育の授業は基本的に男女別の2クラス合同で行われるが、新学期が始まってすぐの体力テストだけは男女一緒に行われている。今日は屋外種目を実施しており、先に男子がハンドボール投げ、女子が50m走、それが終わり次第もう一方の種目の測定を行う段取りになっている。
いつも好みの女子を見かけては「あの子かわいくね?」とか言っているチャラ男が、今ばかりはやけに神妙な面持ちで女子の集団を見つめている。その様子が気になって「どうしたの?」と声をかけてみると、チャラ男は前を向いたまま、緊張感さえ感じさせるような重い口調で言った。
「次、レンカちゃんが走るんだよ」
「それって、我室さんのこと?」
無言の首肯が返ってきた。
僕もスタートラインに立つ二人の女子のうち、手前に見える藍色のキャップを被った彼女に視線を注ぐ。
「あの人がどうかしたの?」
「……まあ見てなって」
直後、スターター役を務めていた同クラスの女子が腕を高く上げながら「位置について」という号令を発した。その号令に合わせ、我室さんともうひとりの女子が並んでクラウチングスタートの姿勢をとった。
僕も尊の隣に並び立ち、これから始まる計測を黙って観察することにした。
スターターの「よーい」の声で二人の女子が腰を高く上げ——「ハイッ」という合図で同時に第一歩を踏み出した。
最初のコメントを投稿しよう!