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翌夜。
いつもの通りから、お祭りの会場はなくなっていた。
僕はもっと焦るかと思っていたけれど、実際には心にぽっかりと穴が空いたような、呆然とした状態だった。
それに心のどこかでは、この夢のような空間は僕の夢の中の出来事なのではないかと思っていたから、たとえそれが夢のように消えてしまっても、ある程度は仕方のないものとして、冷静さを維持できたのかもしれない。
お祭りのない通りは当たり前だけど、静かだった。生温いそよ風が僕の横を通り過ぎる。
お祭りのない夜は静か——むしろそれが普通で、その方が心地良かったのだと信じたくなるような、そんな気さえしてくる。
それは透明な水の中に、絵具を混ぜた色水を垂らした時のように、僕の心の中を止めようもなく、意思もなく、広まっていく。
色水の中の金魚は生きられない。だから僕はその夜の、提灯が揺れ出店の並ぶ光景も、陽気に奏でられた和楽器の音色も、あちこちで漂う芳ばしい食べ物の匂いも、賑わう人々の発する楽しげな熱も、忘れたことにも気づかないうちに忘れていった。
誰もいなくなった通りに、僕は一匹の芝犬を見た。その時、僕はその犬と初めて会ったように思い込んでいた。けれども、ふさふさとくすぐったい体毛を撫でていると、どこか懐かしいような、寂しい感覚になった。
僕はかがんだまま、辺りをきょろきょろと見回して飼い主はいないかと探す。
一体、どこから来た犬なんだろう。僕にはもう、その飼い主の顔なんて見当もつかなくなっていた。
不意に犬が駆け出す。あるところまで行った後、まるで誰かに呼ばれたかのように、もう一度僕の方に振り返った。
それまで吠えなかった芝犬は、錆びた自転車がブレーキを目一杯かけた時のような音を、その喉というか犬歯の隙間から出した。
その声を聞くと僕は安心して、家に帰って寝ようと思った。もう夜も更けていたし。
結局、僕は布団の中に入ったけれど、こうして文章を書いている。でもそれも、もうすぐ終わりそうだ。
夜が明ける前に書き終われて良かったと思う。眠って、それがすべて夢だったと思う前に。
おわり
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