きみは笑っていた

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「蘭。らーん。見て見て、俺の書いた小説、佳作獲った!」 夏休み前の試験期間が終わったあと。 いい知らせがある、と、私は大学キャンパス内にあるカフェに呼び出されていた。 桔平が小説誌を開いて私に見せてくる。 そこには【佳作 静寂の果て 白石桔平】と書いてあった。 「桔平、すごいじゃん。すごいすごい」 「へへーん」 黒い少しウエーブがかった髪を揺らして、得意げに笑ってみせる。 背が高くて整った顔立ち。 平々凡々な私なんかとつき合ってるのが、未だに嘘のようだ。 性格も陽気だし、ポジティブで、一緒にいるのが楽しい。 そんな彼の趣味は、小説を書くことだった。昔から書き溜めていた。 大学のサークルではバスケをやっていたのに、その実文章を書くのが好きだった。 折角なんだから、文学賞に応募してみれば? と私の勧めで、今回初めて投稿し、初受賞となったらしい。 私はその雑誌を手に取り、まじまじと見つめた。 「お祝いに私のプリンアラモードあげる。半分だけど」 甘いものが好きな彼は、メロンソーダをオーダーしていた。 「ありがと。んでさ、俺、小説家目指そうと思うんだけど」 「うんうん、いいんじゃない?」 「だから就活やめる」 私はその言葉にぴたっと笑うのをやめた。 「え? 何言ってんの? 今やっと出版社の面接までこぎつけたんじゃん」 「でも、俺は小説で食っていきたいの」 屈託ない笑顔で言ってのける。 相当、今回の受賞が嬉しかったのだろう。 「――解った。応援する」 彼はますますニコニコ顔になった。
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