きみは笑っていた

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☆ 桔平を何とか真人間に戻す術はないだろうか。 このままじゃ、生きているのに死んでいるような毎日だ。 昨日のことは謝ろうと、私は彼のいる部屋へと戻った。 「ただいま……桔平?」 部屋中にお酒の饐えた匂いがした。 彼はお酒なんて飲まないのに。 私は一末の不安を感じ、廊下からリビングへと慌てて向かった。 桔平は床に倒れていた。 お酒の缶がそこいら中に転がっていて。 テーブルの上には大量の睡眠薬を飲んだ痕跡があった。 彼は眠剤を今まで飲まずに、取っておいたようだった。 定期的に一応精神科には通っていたので、そこで処方された薬が山ほど残っていたのだ。 彼に手をかける。 ――冷たくなっていた。 生気のない目や、口は開かれていた。 彼は笑っているようだった。 私はどこか冷静だった。 桔平は色んな苦しみから解放され、楽になれたのだと思った。 私は倒れている彼の背中をさする。 「……ゆっくりおやすみ、桔平」 どれだけそうしていただろう。 しばらく経って、がこん、と郵便が届いた音がした。 私は何かを感じ、玄関へと赴いた。 白石桔平様、宛ての手紙。 差出人は出版社。 私はびりびりと封を開けた。
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