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淳から言ったの?
「お母さん、すみません・・私がもっと早く気づけばよかったのに・・」
「あの子・・淳には何を尋ねても、『話したくない』って何も言ってくれないんでね、風美さん、淳と何が有ったか訊かしてくれないかね?」
早速、三浦は淳の実家を訪ねていた。
三浦の想定していた通り確かに淳は実家に身を寄せていた。だが尋ねた時はあいにく淳は出かけていた。
母親の裕子も淳からは何も訊かされていないようで、むしろ突然訪れた三浦を捕まえてこれまでの経緯を尋ねていた。
「去年の事ですけど、淳の方からいきなり『別れよう』って言われて、私としてはあまりの唐突に『訳を聞かせて欲しい』って尋ねたんですけど淳の方からは『訳は聴かないでくれ』を繰り返すだけで・・お母さん、私呆れてしまって・・」
「そうなの、淳から言ったの?・・それであなたはどうするつもりなの?」
「どうするも何も・・呆れ果てて興奮していたんでしょう・・淳から離婚届を差し出された時はもう・・まるで条件反射のように、つい押印しちゃいました!」
当時のことを思いだすことで、この時もつい冷静さを失う三浦だった。
「そうじゃなくて風美さん、あなたは自身が離婚する意思があるのかどうかを尋ねているの?」
「今の状況を知った限りでは淳を見捨てることは出来ません!だから私は迎えに来たんです」
「そんな綺麗ごとでは夫婦は続けられないかも知れませんよ⁉ この先、淳がもしあなたの事を・・あの子の記憶から消え去ったとしたら、あなたどう対処します。あなたが幾ら『淳‼』って大声で叫んだとしても『煩い‼ 君はいったい誰なんだ⁉』なんて言われても・・それでも風美さん、あなたそれでも嫁として添い遂げてくれる覚悟はあるの?・・ねえ・・」
「勿論ですお母さん、淳の病を知ったから・・だからこうやって迎えに来たんです! 淳に限って私を忘れる筈は在りません! だって離婚を言い出した淳の言葉の裏側には、私の幸せを、私の人生を壊したくないと言った、とてつもなく大きな愛情が・・淳ってそれだけ優しい人なんですよ! そんな淳が私を忘れる筈がないわ!・・そう思いません⁉お母さん・・」
「風美さん、あなたって人は・・・・」
食卓のテーブルを挟んで三浦と差し向かいに座っていた裕子だが、三浦に背を向けるように席を立つと、首に掛かるタオルで目頭を拭っていた。
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