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共通はラグビー
三浦には気になることがあった。
それは淳の無断欠勤の詳細を知りたい三浦が病院の人事部を尋ねた時のことである。
「人事部としては、医療従事者の健康管理は定期健診の際、感染防止のために採取した血液の抗体検査も実施しています。ところがこの検査の結果、院内の中で数名から抗体反応が確認できたのです」
「それってどう言うことなんですか?それと蒲池の認知症と関係が有るんですか?」
「いいえ私の言いたいのはウイルス菌です。ウイルス菌が体内に入ると、それを攻撃するための所謂、免疫が出来るって事はご存知ですよね⁉」
「えぇ・・じゃごく自然なことなんですよね? でも、どうして数名だけだったんですか?」
「細菌に詳しい検査部長立ち合いで事情聴取したところ原因は或るウイルスに感染していたと言うことです。しかも無症状のままで」
蒲池淳はラグビー国際大会の審判員の資格を習得していた。
こちらの病院は部活が盛んで、野球部やバスケ、さらにはラグビー部も所有している。
大学卒業を前に蒲池はラグビーの部員としてこの病院にオファーがあり最近ではコーチをやっていた。
「えっ、それで蒲池だけが新型コロナに感染していたのですか?」
「いいえ蒲池さんだけではありません。またそれが今流行りの新型コロナウイルスなのかはこちらでは分りません、ただ私がお伝え出来ることは、抗体反応が出た者は共通して国際大会に出場していたと言うことです。つまりその大会で感染したことが裏付けられます」
「それでは、そのウイルスに感染したことと蒲池の認知症と、何らかの因果関係が有るとでも・・」
「うちの担当医はそうとは理論づけしていませんが、私個人としては何かが作用してそうな気がしてなりません。もっとも私は医療事務職で医師ではありません」
「宜しければ教えてもらえます・・同様の抗体が確認された他の方は、蒲池と同じ症状が見られるのでしょうか?」
「今のところ、他の関係者には守秘義務を適用するような症状は確認されていません。ですが・・」
「ですが?・・どんなことでも構いません、教えてください蒲池の人生が掛かっています! 直してやりたいんです!」
興奮した三浦の声がやや大きくなりだした。その様子に驚いた担当者は席を立つと、今入室している応接室の扉を開き、廊下の様子を伺った。
そして、声を落として呟き始めた。
「分りました・・これから話すことは私の独り言として聞き流してください。蒲池君は大会から戻ったあの日から徐々に様子がおかしくなった気がして・・あっ、申し遅れました、私、蒲池君と親しくしてもらっている広川と申します」
(人事部の広川さんでも疑うような因果関係を、どうして専門医は気づけなかったのだろう、もしかして同じ院内の従事者が故の気の緩み?だが一度診断した限り後戻りっ出来ない医師と看護師の確執が邪魔をしたのか?
よし・・それなら私から直接聞いてやろうか!)
「すいません広川さん・・でしたよね・・蒲池の担当されていた先生のお名前教えていただいても構いません?」
「松田・・脳神経内科の松田先生です。でも私から聴いたってことは・・ちょっと」
「分かりました、広川さんのことはお話しません」
早速、三浦は受付を尋ね松田医師への面会をお願いした、しかし患者の個人情報は『守秘義務』の関係で他人にはお話しできないと、面会すら拒絶されてしまった。
(蒲池の元妻だと名乗りつつも『広告会社秘書・三浦風美』の名刺を提示したのでは、それでは無理は明白だった)
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