スペインの歴史②

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スペインの歴史②

「帝国の時代が、今回の王制の崩壊まで引き継がれていくのですね。」 「確かに王制は続くが、内容が辛辣(しんらつ)だった。黄金の世紀は、百年足らずで終りとなる。世界の海運の覇権争いも、15世紀末のスペイン無敵艦隊が英国に敗れると、国力自体が衰退していくんだ。その後、宗教上の争いや他国の王位継承戦争に関わる。特に、自国の王位継承戦争で、英国、蘭国とオーストリア国の連合と戦い疲弊しきってしまった。」 4717e044-5210-4190-89fd-a1608e41c56e「この継承戦争の時、皇帝が代わったのですか。」 「そうだ、仏国ブルボン家が王位に就くことになった。」 「隣国の名家ですか。でも、何故自国のゆかりの名家からじゃなかったんですか。」 「欧州の王族は、政略結婚によりどこかで親戚関係になっていた。当時のスペインの皇帝は身体が弱く、世継ぎができる様子じゃなかった。そこで、系統の仏国、オーストリア国の王族から継承者候補があがった。この継承が決まれば、同時に有力国が同盟関係となり、強大な国家勢力となる。そこには、仏国の目論みがあったんだ。スペイン王が突然崩御し、遺言で仏国の継承者となったんだ。それは、仏国絶対君主、ルイ14世の画策とも言われている。」 「いつの世にも、凄惨な権力争いがあるんですね。」 「うん、全くだ、人間の権力欲には呆れ果てるよ。しかしブルボン家は、それまでの弱体国家スペインを再建したんだ。先進国、仏国の制度を導入し、行政と経済の近代化を図り、これまで残してきた海運力で交易力を急成長させた。」 「それでは仏国との関わりの中で、後の世紀を迎えることになりますね。その後の市民革命とナポレオンと関わってくるわけですよね。」 「尚子ちゃん、凄いね、その通り、よく分かっているね。」 「声楽は、オペラのことも勉強するので、その時代の伊国、仏国、オーストリア国の出来事が名前くらいですけど出てくるんです。典子さんは器楽だから、もっと知っていると思いますよ。」 「へーそうなんだ、典子からそんなこと今まで聞いたことないな。あいつ、ちゃんと勉強してないんじゃないか。」 「そんなことありませんよ。きっと、言ったら伯父様から、からかわれるからじゃないですか。」 「アハハ、それもそうだな。さて、革命により共和国になった仏国は、他の王制諸国の脅威となった。英国、オーストリア国など有力諸国は、同盟して仏国に宣戦した。」 「みんなでよってたかって来るなんて、仏国は敵わないですよね。」 「それがだ、国民全体の結集は奇跡を起こす。徴兵による国家総動員の戦いで、英国を残し、勝利を収める。スペインも同盟国として参戦するが、敗戦し、仏国に従属することになった。この戦争で活躍し、名声をあげたのが、ナポレオンだ。」 「ナポレオンは、革命後の政府に謀反を起こし、自ら皇帝となって、欧州を掌握したと聞いてますが、スペインとも何か大きな出来事があったんですよね。」  兼次は、頷きながら話を進める。 「ナポレオンの治める仏国は、英国だけには勝てなかった。そこで、スペインを従えて英国に宣戦するが、海戦で惨敗してしまう。スペインは、この戦争による消耗と弱体化した政府への内紛により、王が退位する。すると、スペイン支配を狙っていたナポレオンはこれに付け込み、新しい王も退位させて、自分の親族を王に就けたんだ。」 「すると、王族でもない外国人が、王様になってしまったのですね。」 「そう、どこの誰だか知らない隣国の親父がいきなり王になって、当然スペインの人々は怒るよな。この傀儡(かいらい)王制に国民の怒りが爆発し、マドリードを契機に反乱はスペイン全域に広がった。仏国に対する独立戦争が始まったんだ。」 「スペインだけで戦ったのですか。」 「英国との連合だった。連合軍はナポレオンに苦戦したが、全国民が参加した粘り強い戦いになると長期戦になったんだ。その消耗戦の間に、ナポレオンはロシア遠征に失敗し、失脚した。」 「有名な、冬将軍からの敗北ですよね。」 「彼は後に、‘自らの栄光の終止符は、スペインからだった’と言っている。」 「市民革命の英雄とされたのに、今度は、国民の力に屈したのですね。そして、再び王制に戻ったのですね。仏国から解放されたその後、情勢は良くなったのですか?」 「経済は、それまで仏国の力を借りていたために、ナポレオンの侵略後は壊滅的だった。政治についても、王の統治が開放的な政治を要求していた国民の期待を裏切り、古来からの君主制を進めようとしたために、再び反乱が起こり、復古派と革新派の内戦になってしまう。」 「この頃のスペイン国内は、混乱続きなんですね。」 「スペインというより、欧州諸国全体の社会構造が君主制から民主制に変わり始めたんだよ。我が国は、まだ欧米諸国の民主制とは程遠い。欧米諸国を目指しているなら、いつかは日本国民が、自ら国を動かす意志を示す時がやってくるのかもしれないな。」 「私達国民全体が、政治のことに携わるって、どういうことなんでしょうか。」 「まあそれは、また後で話することとしようか。その後、スペインの弱体化した国力に追い討ちをかけるかのように、財産であった世界の植民地で民族独立の運動が次々と発生した。特に戦争にまでなった米国の介入は、スペイン植民地支配の終りを告げたんだ。」 「そうなんですか。スペイン植民地支配は、今欧州の列強諸国が行っている、亜細亜、アフリカへの植民地支配の先駆けだったのですね。」 「そうだな、それで結局のところ、あの世界大戦を引き起こすはめになった。スペインの歴史のことを話していて、人の歴史は、覇権争いの繰り返しだとつくづく思うよ。ああ、ちょっとまた話がそれたけれど。その後、王制の維持と暴動が続く国内の社会不安を打開しようと、軍事政権による統治を始めるが、余りに強権的だったため、国民の反発により首相が失脚した。代わって王制打倒を目指した共和派が政治の実権を握り、ついこの前のことだが、王制が倒れてしまったんだよ。」 「欧州の国々は、私達の日本と随分違う、様々な人々、歴史、文化があるんですね。スペインの歴史を聞かせて頂きましたが、私には知らない、分からないことばかりで、大変勉強になりました。また、同じことを聞いてしまうかもしれませんが、教えてくださいますか?」 「ごめん、ごめん。これでも短くしたつもりなんだが、歴史の講義を聞いているみたいだったよな。俺も話してて、フラメンコのことなんだろうかと思ったし、こりゃ、一筋縄ではいかんとも感じ始めたよ。おっと、もうこんな時間だ、もっと色々話したいところだが、午後一番に予定が入っているから、この辺でお開きで良いかい。」 「忙しいところ付き合って頂いて、ありがとうございます。また、次に機会ある時、お話頂いても宜しいでしょうか。」  すると兼次は、ちょっと考えて尚子の意に応えた。
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