フラメンコを知りたい

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フラメンコを知りたい

「次の機会になんて悠長なこと言ってたら、いつになるか分からん。尚子ちゃんが良ければ、都合が許す限り、定期的に会合する時間を作るのはどうだい。」 「本当ですか。私には、願ってもないことです。是非お願いします。特に、こんな感じで食事やお茶をしながらだと、楽しくなりそうですね。」 「それじゃあ、日曜日の午前中、各偶数の週でやってみようかね。駄目な時は、できるだけ2日前までに連絡するということでどうだい。」 「私は大丈夫ですけど、せっかくの休日を潰してしまい、ご迷惑になりませんか。」 「俺は、願い叶ったりだよ。家族を失って、休みを愉しむなんか無かった。尚子ちゃんが承知してくれることを期待しているくらいなんだよ。」 「そう言って頂けるんですね。それでは遠慮することなく、その様にお願いいたします。」 「そういえば宮本も、皆の話し合いの場を設けたいと言ってたよ。今度あいつにも日曜日の朝に出て来れるか聞いておくよ。ホセと会うのもこの方が気軽だし、変に緊張しないでいいかもな。」 「それは、凄くいい考えです。私、多分、ホセさんに初めて会う時は、あがってしまって何もしゃべれないと思います。そしてやっぱり、なるべくスペインのことを知った上でお話したいんです。そうすれば、ホセさんの生活習慣や食べ物のことなど色々聞いて、少しは理解できるのかもしれません。あと、スペインの言葉は全く知らないので、どなたか話せる方を探して、教えてもらおうと思っているのですが。」 「それじゃあ次の時には、俺が見てきたスペイン人の気質や食生活について話そうか。それから、言葉については、余り心配しないでいいよ。」 「伯父様、喋れるのですか。それとも、まさかホセさんが日本語は堪能だとか・・・。」 「そう、ぺらぺら、なんて、冗談だけど。宮本の秘書、海堂だよ。」 「そう言えば、急遽、語学力と報道の経験を買われて、雇って頂いたと言われてました。」 「なんだ、そこらへん知っているんだ。」 「いえ、私はそこまでです。」 「宮本の対応の速さは、俺も感心するよ。言葉を喋れる者を雇うのが、一番良い方法だろうな。彼女は、英、仏、独、西4ケ国の言葉が出来るそうだ。尚子ちゃんとホセ君の間に入って、言葉を始めとする相談役を任されているそうだよ。」 「本当ですか、凄く嬉しいです。あんなに自立している、大人の女性を初めて見ました。私、海堂さん自身を尊敬してて、色々お話したいなと思っていたんです。」 「そうだな、典子の姉、玲子とそうかわらん歳だろうが、自信を持って行動しておるし、言葉に全く迷いが無いもんな。男の俺から見ても、頼もしく見える。だが、ちょっと女性の色気を感じないんだよな。」 「まぁ、伯父様。これからは、女性もどんどん社会に出て、国を支えていく様にならないと。米国では、当たり前のことと聞いてますよ。」 「ごめん、ごめん。尚子ちゃんを怒らせるつもりは無かったんだ。でもな、異性を感じさせることも、個性を尊重する文化の国では重要なんだよ。特に、これからフラメンコをやっていくには、絶対的に必要なものだ。尚子ちゃんは、余りある程女性らしい、これは、生まれつき持っているものなんだ。まあ、そうじゃなかったら宮本も声かけなかったけどね、ハハハ。」 「んっもう、褒められているのでしょうか。」 「言葉や知識はそう急ぐことはないからな。とりあえず、お父上に、フラメンコの件を尋ねておいてくれよ。」 「分かりました、父の気持ちが聞け次第、すぐお知らせいたします。あと、1つお願いがあるのですが。」 「なんだい、俺にできることなら、遠慮無く言ってみてくれ。」 「ホテルの料理人の方で、スペインの料理をご存知の方がいらっしゃいましたら、紹介頂きたいのですが・・・。」 「おっ、早速来たね。確か先週、欧州航路から帰って来た若いのがいたから、総務担当に聞いておくよ。バルやタベルナで食った、ガスパッチョ、パエリア、チョリソー、小海老のから揚げや羊の肉料理、シェリー酒と共にを楽しんでた頃が懐かしいな。料理作ってみるなら、食べに行ってもいいよね。」 「別に構いませんが、私の料理を見て、後で後悔しても知りませんよ。でも、タベルナっていう名前の料理店があるのですか、面白いですね。」 「いやいや、尚子ちゃん。酒や料理を出す店のことで、タベルナと言うのだよ。例えば、うどん屋とかそば屋ということだね。」 「そうなんですか、スペインの言葉も面白いのがあるのですね。」 「今のように、言葉は遊びながら覚えるのが早道だからね。これから海堂やホセ君から、おいおい教わっていけばいいよ。じゃあ、今日はこれくらいで終りにしようか。」 「ええ、楽しかったです。これから、この会合の日が来るのが待ち遠しいです。」  兼次も言葉に出さなかったが、同じ気持ちだと笑顔で応えた。休日であるが、先程のちらほらと居た客達は、皆、部屋へ戻ったらしく、ダイニングには2人だけになっていた。 「今日はこの後用事があるのかい。」 「いいえ、特には無いですけど。」 「それじゃあ、帰る時いつでも良いから、フロントの職員に言ってくれれば、帰りの車を出すからね、それまでゆっくりして。」 「いいえ、自分で呼びますから大丈夫ですよ。お世話になりっぱなしです。」 「大丈夫、大丈夫。そんな水臭いこと言わないで、こういう時は、オジサンに花を持たせてくださいな、尚子嬢さん。」 「尚子嬢は、やめてくださいな。恥ずかしいです。」 「ハハハ、冗談、冗談。じゃあ、これから先何も無ければ、俺の資料室を見てみると良いよ。欧州を訪れていたものが、色々あるんだ。さっき言っといたから、フロントの高橋に案内してもらってくれ。資料室と言っても、俺の趣味の部屋だからな、いろんなくだらない物も置いてあるが、遠慮無く見たり触ったりしていいよ。」 「本当、宜しいんですか?」  それから尚子も部屋に戻り、窓を開け、ホテルから見える港の風景を楽しみながら帰りの支度をしていた。すると、部屋の出入口ドアをノックする音がした。
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