12人が本棚に入れています
本棚に追加
/111ページ
1 坂本 楓
―ご自由にどうぞ―
そう書かれたカードと共に置かれていたのは、ラッピングされたお菓子だった。
赤いリボンで飾られた、シンプルなバタークッキー。
カードの隅に
―Eat Me―
なんて書かれていて
「アリス?」
きょとんと、彼女はそれを見下ろした。
しとしとと雨が降る、梅雨が始まったばかりの陰鬱な天気の日だった。
場所は人気のない校舎の隅に位置する場所。
なぜそんなところに彼女がいるかといえば、探し物をしていたのだ。
少女は放課後、授業が終わると校内をあてもなくさまよう。
すぐに見つかるとは思っていない。
けれど、見つけなくてはいけない。
ふらふらと、1人であてもなく歩いていた。
そこで見つけた、おかしなクッキー。
校舎裏に繋がる扉の前。
普段は鍵がしまっているそこには、基本的に誰も近寄らない。
そんなところに、落ちていた、いや、置かれていたクッキー。
「食べてもいいのかな」
つぶやきには誰も答えない。
キョロキョロとあたりを見回して
「………」
少女は拾い上げる。
そっと、封を開けると甘い香りがふわりと鼻をくすぐる。
一口、かじる。
「…おいしい」
意外そうにつぶやいて、少女はそのままそこを立ち去った。
最初のコメントを投稿しよう!