1 坂本 楓

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彼女の名前は坂本 楓。 彼女の紹介をするなら、一言。 ぼっちだ。 いじめられているわけではない。 けれど、いつも1人でいるのだ。 そうなりたかったわけではない。 ただ、気が付いたらそうなっていた。 彼女はいつも放課後、学校の裏にある旧校舎に隠れている。 本当は、友達と遊び歩いたりしたいけれど、そのやり方が分からない。 「やっぱ、部活の1つにでもはいるべきだったかなあ」 ささくれた木造の窓枠にもたれかかって、楓は外を眺める。 来年には取り壊し予定のこの場所に近づく人はほとんどいない。 ところどころ床が抜けている場所もあるし、雨漏りもひどい。 楓がいる教室は、奇跡的にまだ腐っても水もしたたってもいないけれど、それも時間の問題だろう。 「一年生になったらーって歌もあるけど、もう2年生だし」 小学生の頃から、1人だった。 「ここがなくなったら、どうしようかなあ」 予定のない放課後は、彼女にとって時間が長すぎる。 家は、まっすぐ帰りたい場所ではないから。 「いいとこ、早く見つけないと」 人気がなくて、静かで、時間がつぶせるところ。 ここ数日、ずっとさがしているけれど、見つからない。 代わりに見つけたのは 「これ、誰が作ったんだろう」 おかしなクッキー。 初めて見つけた日から、毎日あった。 同じ場所にではない。 階段の裏。 空き教室の隅。 施錠された扉の前。 とにかく、人気がなくて見つかりそうもないところにばかり置かれているのだ。 まるで、隠すみたいに。 楓のような変わり者じゃないと見つかりそうにないところばかり。 クッキー カップケーキ チョコレート パウンドケーキ 毎日違うものが置かれていて、味は安定においしかった。 「誰が、作ってるんだろう」 こんな風変わりなことをする人となら、友達になれないだろうか。 たまに夢を見る自分に気がついて 「ま、無理かなあ」 楓は何度も否定する。 「誰かと簡単に仲良くなれたら、こんな風になってないって」 謎のクッキー 誰が何のために それを知る前に、出会いがあった。 言っておくがお菓子の作り手じゃない。 「だ、誰…」 バケツ男が、旧校舎でクッキーをかじっていた。 いつも通り、放課後に旧校舎を訪れた時だった。
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