3 みーつけた

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「まさかとは思うけど、あなたのせいじゃないよね?」 放課後の旧校舎。 雨漏りを避けながら、いつもの廃教室にいくと、バケツ男はやっぱりそこにいた。 「ボクのおかげだよ?」 床にあぐらをかいて、どこか得意そう。 「その様子だと、ボクの縁は正常に作用したようだね?  どう?  うれしい?」 教室の入り口に立って、楓は相手をムッとした顔で見つめる。 「うれしくなんか…ていうか、縁をあげるって、なんなの。  私、そんなこと頼んでない」 「言ったじゃないか。  サービスの前払い。  頼み事、引き受けてくれる気になった?」 「意味が分からない」 そもそもこの人は何者なのか。 「あなた、一体何なの?」 楓が尋ねれば 「だからくゆりで良いってば。  名前で呼んだ方が、仲良くなれる気がしない?」 くゆりはしれっと答える。 「仲良くなりたいなんて思ってない」 「じゃ、これから仲良くなろ。  別に怪しいって思うことは信じなくていいよ。  そもそも、縁をどうこうするなんて、人にできると思う?」 「じゃ、やっぱり嘘なのね?」 少し信じてここに来てしまった自分が、楓は嫌になった。 「さあ、どうかな?  でも、お礼はちゃんとするよ」 くゆりは立ち上がる。 「とにかくさ、ちょっと手伝ってよ。  どうせ暇でしょ?」 「…嫌って言ったら?」 「立ち入り禁止の旧校舎に出入りしてる生徒がいますって、先生に教えちゃおうかなー」 「………」 ぐっと、楓はこぶしを握り締めた。 「なにすればいいの?」 「んー、今日のところはとりあえずなにも…。   あ、お菓子ないの?  いつもの」 「…ない」 正確には探さなかっただけなのだが。 くゆりはちょっと残念そうに肩をすくめた。 「そっかー。  まあ、いっか。  そうだ、楓はなにか得意なことある?」 「得意?」 楓は眉をひそめる。 「うん、そう。  写真を撮るとか、走ることとか…もしくは、絵を描くこと」 「………」 「たまに、ここで絵を描いて遊んでたよね?」 「いつから、見てたの?  ストーカー?」 くゆりはバケツの頭をかく。 「んー…とりあえずさ、描くための道具、持ってきて。  約束ね」 「なにが約束よ」 楓はこれ以上ここにいたくないと、出口に向かって歩き出す。 友達は、ほしいと思っていた。 けれど、こういうことではない。 面倒ごとの匂いがぷんぷんする。 「私は、普通になりたいだけなんだけどなあ」 帰り道を歩きながら、楓は手に持った傘の柄をくるくる回す。 傘がくるくる回って雫が飛んで、それが少し面白くて彼女は少し笑う。 雫が散っても、迷惑に思う人はいない。 だって、楓のとなりには、誰もいないから。 少なくとも、この日まではそうだった。
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