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4 いつか届け
楓はただいまを言わない。
言っても、意味がないから。
彼女の家はいつだって楓1人しか住んでいない。
母は仕事で忙しく
父は単身赴任
帰っても誰もいないなんて日常茶飯事で、おかえりなんて記憶にある限りでは言われたことがない。
家族そろってご飯なんて、楓にとっては都市伝説レベルの話。
そもそも、面と向かって話したこともろくにない。
メモ書きやスマホのメッセージで必要な物やお願いをすれば、ある程度は用意してもらえる。
けれど、授業参観や面談。
運動会も文化祭も、行事への顔出しは全滅。
周りの家のように、今日あったこと、一緒にやりたいこと、言った試しも聞かれたためしもない。
楓が何をしてようが、文句も説教もしない。
ほめられたこともほぼ皆無。
つまりは、放任主義。
自分のことは、おそらくどうでもいいのだと彼女は思っている。
(信用してるって言えば、聞こえはいいけどさ)
冷蔵庫を開けて牛乳を取り出す。
(今日、カップ麺でいいかなあ)
料理を作れることは作れるが、毎日だと面倒くさい。
しかも、自分のためだけと思うとなおさらだ。
小学生の頃は、ご飯や食事代だけを机の上に用意されていた。
まだ、楓が両親に一緒にいてほしいと思っていた時期。
少しでも振り向いてほしくて、自分で一生懸命、本を見ながら料理を作るようになった。
夜遅くに帰ってくるだろう母親の分も。
けれど
―ご飯、作れるならお金だけおいておくね―
必要のないことは、しない主義の母親。
―あと、お母さんは外でいつも食べるから、いらないわ。
あっても捨てるだけだし―
返ってきたのは、そんなメモ書きだけ。
その頃から、母親が家に帰ってきてるのかも怪しい。
(まあ、どうでもいいんだけどさ)
コップに入れるのも面倒くさくて、楓はパックのまま牛乳を口に流し込む。
まともな家ではないことは、楓自身がよく分かっている。
そのせいで、周りから色々と言われて、友達なんてろくにできなかった。
普通に、あこがれていた。
楓は牛乳を冷蔵庫に戻し、自分の部屋に入る。
机の上に放置されているスケッチブック。
最近はなんとなく触っていなかったそれを久しぶりにめくった。
趣味、というほどのめりこんでいるわけではない。
ただ、友達はいない。
休日に遊びに連れて行ってくれる親もいない。
必然的に、1人遊びばかりするようになっていた。
蛇足で続けているだけの暇つぶし。
(ほとんどページが埋まっているけど、まあ、いいか)
スケッチブックを乱暴に学校用のカバンに押し込んで、それから色鉛筆も同様に詰めた。
「あーあ、どうしたら普通になれるのかなあ」
つぶやいても、今の彼女は理想にほど遠い。
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