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「だけど私たちが携わる領域は新入社員に限られてしますよね?」
「恥ずかしいことだが今の人材開発課の状態で全社員のマネジメントを行うことは難しい。だからまずは新入社員を対象にして人材育成と人材開発を並行して行い、社内に成果を示すことで信頼の獲得に努力している段階なんだ」
課長の説明は親切で丁寧だ。
自分たちが今後携わる業務についてのあらましを理解した私と加瀬くんは、視線を合わせてにこりと笑い合った。
「そこでまず、君たちはそれぞれ、美島さんと小椋くんについてここの仕事を覚えてもらいたい」
「承知しました」
「だが君たちはもう新入社員ではない、人材開発を推し進める俺がこんなこと言うのもなんだが、ご丁寧に育成をしてあげる暇はなくてね」
眼鏡の奥の瞳が柔和に細まる。
「ふたりには課題として新入社員の定着率向上に関する企画書を作成してほしい」
「企画書ですか?」
「ああ、そしてそれを今年の新卒社員相手にふたりで実行に移してもらうつもりでいる」
えっ、私たちの企画を?
驚いて思わず声を漏らしそうになったのをどうにか堪えると、課長がくすりと人好きしそうな笑みをこぼした。
「大丈夫、俺も周りもフォローするから」
「…頑張ります」
「実戦に勝る育成はない、ってのが俺たち人材開発課のモットーだからね」
実戦に勝る育成はない。
それはたしかに、真理かもしれない。
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