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百恵さんから貰ったデータと昨日の夜に詰め込んだなけなしの知識。
私の武器は、今はまだそれだけだ。
「転職を視野に入れながら就活する時代か」
「加瀬くんは転職考えたことある?」
「俺は正直まだないな、でもマーケは結構ノルマ厳しかったから周りではそういう声もちらほら聞くことあったよ」
「営業部の離職率、ここだけ確かにうちも四割超えてるんだよね…」
「総合職で入っちゃうと最初の配属で結構明暗分かれるところあるもんなあ」
「それも本社より地方の離職率の方が高い」
「まずは企画内容を明確にしよう」
この企画を通すことによって自分たちは何を達成したいのか。
最初の一歩はまずそれを決めること。
新卒社員全員の定着率の底上げなのか、それとも今取り組むべきは離職率の高い部門や地域に絞った施策なのか。
どちらか一方に絞ろう、と加瀬くんが言った。
「今の課の機動力を考えると、元々定着率の高い部門や地域に関してまで施策を講じる必要はないと俺は思う」
彼の提案は気持ちが良い。
決断が早くて、自分の意図が明確だ。
そして営業畑で培ったものだろう、彼の声の裏に浮かんだ柔らかな自信が、その提案に対しての期待感を高めた。
「私もそれが良いと思う」
「なら決まりだな、離職率が三割を超えてる部門と地域に絞ってまずは事実ベースで定量分析から始めよう」
「百恵さんから貰った資料に向こう十年の蓄積データがあったの、そのローデータ私が綺麗にするよ」
「じゃあその間に俺は施策内容考えてみる」
「よろしく」
筋道が決まったらあとは実行するだけだ。
私たちは笑顔で頷き合って、各々できる仕事から手探りで始めることにした。
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