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「それでは人材開発課の新たな仲間に」
乾杯!とグラスを合わせる。
その日の夜、居酒屋のお座敷でテーブルを囲んだ人材開発課の面々に私と加瀬くんは歓迎会を催してもらった。
「嬉しいねえ、初の人材登用だ」
「五年目の悲願ですね」
「まったくだよ、人事部長に散々嫌味言われながら彼らを勝ち取った俺を褒めたたえてくれていいよ皆の衆」
隣に座った百恵さんの声に、嬉しそうに課長がビールを煽っている。
まだまだ新参の部署である人材開発課は社内での地位も低く、人材獲得にこれまで様々な苦労があったらしい。
「実を言うとね、加瀬くんと榛名さんの異動は去年の四月人事で打診してたんだ」
けれど結局去年の人事は却下された。
営業部と販促部の部長からストップが掛かったのと、人事部長もそれほど積極的に社内調整を進めてくれなかったらしい。
「課長、結構食い下がったんですけどね」
「本当だよ、今の人員配置のままじゃこれ以上の人材開発は限界がある」
「営業と販促から人員を引き抜きたかった理由とかあるんですか?」
「フレームワークと数値分析の得意な子が欲しくてね、まさに君たち」
「あー、だからフロントとバックから」
加瀬くんが納得したように頷いて、空いた部長のグラスにビールを注ぐ。
さすが営業、と言いたくなるそつなさだ。
「特に販促部長からは渋られてね」
「そうだったんですか?」
「バックオフィスは営業ほど次々に社員補充をしにくい風土があるから、優秀な若手を他部署に引き抜かれるなんて話はとりあえず否定から入る」
なるほどと内心で納得した。
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